クロネッカーの稠密定理とその証明

クロネッカーの稠密定理

任意の無理数 xx0a<b10\leq a <b\leq 1 を満たす任意の実数 a,ba, b に対して a{nx}ba \leq \{nx\} \leq b を満たす自然数 nn が存在する。

{X}\{X\}XX の小数部分という意味です。

この記事では,クロネッカーの稠密定理の意味と証明を解説します。

証明には鳩ノ巣原理を用いるので少しテクニカルですが,難関大学の入試で出題されてもおかしくないレベルです。

クロネッカーの稠密定理の意味

「稠密」はちゅうみつと呼びます。隙間なくぎっしり詰まっているという意味です。「隙間なくぎっしり詰まっている」というのは「どれだけ狭い幅の区間を取ってきてもその間に要素が存在する」ということです。

つまり,[0,1][0,1] 上の稠密集合とは,

0a<b10\leq a <b\leq 1 を満たす任意の実数 a,ba, b に対して aabb の間に要素が存在する集合です。

どんな無理数 xx を持ってきても x,2x,3x,x,2x,3x,\cdots の小数部分を列挙していくとそれは [0,1][0,1] 上の稠密集合になっている

というのがクロネッカーの稠密定理の主張です。

証明の方針と前半部分

以下の3ステップで証明します。

方針
  1. {x},{2x},{3x},\{x\},\{2x\},\{3x\},\cdots たちは全て異なる。

  2. うまく nn を持ってくれば {nx}\{nx\} をいくらでも端っこに近いものを持ってこれる(鳩ノ巣原理を用いる)。

  3. 端っこのものを何倍かすればOK。

2が一番おもしろい核心部分です。

ステップ1:証明の準備

{ix}={jx}\{ix\}=\{jx\} となる自然数 i,j (i<j)i,j (i <j) が存在すると仮定すると,

(ji)x(j-i)x が整数となり xx が無理数であることに矛盾。

よって背理法により {x},{2x},{3x},\{x\},\{2x\},\{3x\},\cdots たちは全て異なる。

クロネッカーの稠密定理の証明

証明

ステップ2:

任意の自然数 NN に対して以下の議論が適用できる。

00 から 11 の区間を NN 等分する。鳩ノ巣原理より,{x},{2x},,{(N+1)x}\{x\},\{2x\},\cdots,\{(N+1)x\} のいずれかは同じ区間に属する。それを {ix}\{ix\}{jx}(i<j)\{jx\} (i <j) とおく。

・ステップ1により {ix}={jx}\{ix\}=\{jx\} とはならない

・パターンA: {ix}<{jx}\{ix\} <\{jx\} のとき

{(ji)x}={jx}{ix}<1N\{(j-i)x\}=\{jx\}-\{ix\} <\dfrac{1}{N}

よって, 0<{(ji)x}<1N0 <\{(j-i)x\} <\dfrac{1}{N}

(つまり十分 00 に近い)

・パターンB: {jx}<{ix}\{jx\} <\{ix\} のとき

{(ji)x}=1({ix}{jx})>11N\{(j-i)x\}=1-(\{ix\}-\{jx\}) > 1-\dfrac{1}{N}

よって, 11N<{(ji)x}<11-\dfrac{1}{N} <\{(j-i)x\} <1

(つまり十分 11 に近い)

パターンBも同様なので以下パターンAについて証明する。

クロネッカーの定理の証明

ステップ3:

端っこに近い {(ji)x}\{(j-i)x\} を利用して {k(ji)x}(k=1,2,3,)\{k(j-i)x\} (k=1,2,3,\cdots) たち(図の赤丸)を考えると十分狭い間隔で均等に散らばる。区間幅 bab-a よりも小さくなるくらい NN を十分大きく取っておけば必ず aabb の間に1つは {k(ji)x}\{k(j-i)x\} が存在することになる。

細かい部分をきちんと議論すると結構大変でしたが,やりたいことは単純です。