アダマール行列の定義と性質

各要素が 11 または 1-1 で,各行が互いに直交するような正方行列をアダマール行列 (Hadamard matrix) と言う。

アダマール行列の例

サイズ1の例: (1)\begin{pmatrix}1\end{pmatrix}

サイズ2の例: (1111)\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}

サイズ4の例: (1111111111111111)\begin{pmatrix}1&1&1&1\\1&-1&1&-1\\1&1&-1&-1\\1&-1&-1&1\end{pmatrix}

はアダマール行列です。

HH がアダマール行列のとき,(HHHH)\begin{pmatrix}H&H\\H&-H\end{pmatrix} もアダマール行列になります。

アダマール行列の性質

HHn×nn\times n アダマール行列のとき,

性質1: (detH)2=nn(\det H)^2=n^n

性質2: HH の各列も直交する

性質3: HH のサイズは 11 ,または 22 ,または 44 の倍数

性質1の証明

アダマール行列の定義より,HH=nIHH^{\top}=nIII は単位行列)

よって(積の行列式は行列式の積なので),

detHdetH=nn\det H\det H^{\top}=n^n

また,detH=detH\det H^{\top}=\det H

→転置行列の意味・重要な7つの性質と証明の性質2)

なので,

(detH)2=nn(\det H)^2=n^n

性質2の証明

アダマール行列の定義より,HH=nIHH^{\top}=nIII は単位行列)

よって,HH の逆行列は 1nH\dfrac{1}{n}H^{\top} となる。

よって,1nHH=I\dfrac{1}{n}H^{\top}H=I

HH=nIH^{\top} H=nI

これは HH の各列が互いに直交することを示している。

アダマール行列のサイズ

サイズ3以上のアダマール行列のサイズが 44 の倍数になることを証明します。

性質3の証明

HH のある列を 1-1 倍しても行ベクトルの直交性には影響を与えない。よって,HH の各列について適切に ±1\pm 1 倍することで,一行目が全て 11 であるアダマール行列 HH' を作ることができる。

また,列を交換しても行ベクトルの直交性には影響を与えないので,2行目が 11 のものを左に集める。さらに,その中でも 33 行目が 11 のものを左に集める。

アダマール行列の性質

4つのブロックのサイズを a,b,c,da,b,c,d とおく。

1行目と2行目の直交性から a+b=c+da+b=c+d

1行目と3行目の直交性から a+c=b+da+c=b+d

2行目と3行目の直交性から a+d=b+ca+d=b+c

以上から a=b=c=da=b=c=d となる。

よって,HH' のサイズが 44 の倍数なので HH のサイズも 44 の倍数である。

参考文献:Peter J. Cameron, Hadamard and conference matrices

ちなみに,全ての4の倍数サイズのアダマール行列が存在するかどうかは未解決問題らしいです。

自分にはこの記事に書いた程度の知識しかありませんが,実はかなり奥が深い行列のようです。