ガウス整数とその応用

ガウス整数の定義

整数 a,ba,b を用いて a+bia+bi と表される複素数をガウス整数(複素整数)と呼ぶ。

関連する用語

  • ガウス整数全体の集合を ガウス整数環と言います。→環の定義とその具体例

  • 「ふつうの」整数を 有理整数と言うこともあります。また,有理整数全体の集合を有理整数環と言います。

  • ガウス整数における 倍数,約数の定義は有理整数の場合と同様です。つまり,ガウス整数 a,ba,b に対して a=bca=bc となるガウス整数 cc が存在するとき,aabb の倍数,bbaa の約数,と言います。

ノルムと単数

  • ガウス整数 a+bia+bi に対して a2+b2\sqrt{a^2+b^2}ノルムと言います。

  • ノルム NN は乗法性を持ちます。つまり,任意のガウス整数 α,β\alpha,\beta に対して N(αβ)=N(α)N(β)N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta) が成立します。簡単に証明できます(複素数の絶対値と同じですね)。

  • 11 の約数を単数と言います。

  • 単数は,±1,±i\pm 1,\pm i44 つだけです。証明してみましょう。

証明

α\alpha が単数なら,αβ=1\alpha\beta=1 となるガウス整数 β\beta が存在する。ノルムの乗法性より

N(α)N(β)=1N(\alpha)N(\beta)=1

ノルムは正の整数なので N(α)=N(β)=1N(\alpha)=N(\beta)=1

よって,α=a+bi\alpha=a+bi とすると a2+b2=1a^2+b^2=1

これを満たすのは (a,b)=(±1,0),(0,±1)(a,b)=(\pm 1,0),(0,\pm 1) の4パターンのみ。

素因数分解(既約元分解)

ガウス整数環における「素数」をガウス素数と言います。つまり,(±1,±i\pm 1,\pm i と異なる)2つのガウス整数の積で表せないものです。ただし,11 を素数から除くのと同様に,単数 ±1,±i\pm 1,\pm i はガウス素数から除きます。

例えば 22 は有理整数の範囲ではこれ以上分解できませんが,ガウス整数では (1+i)(1i)(1+i)(1-i) と分解できるのでガウス素数ではありません。

ガウス整数環においても「ふつうの」整数の場合と同様に素因数分解の一意性が成立します。難しい言葉を使うと「ガウス整数環は一意分解整域」です。

ただし,1-1 または ±i\pm i 倍で移れるガウス素数は同じものとみなします。例えば 2=(1+i)(1i)=(1+i)(1i)2=(1+i)(1-i)=(-1+i)(-1-i) は同じ分解とみなします。

応用

ガウス整数の応用として,ピタゴラス数についての以下の定理を証明してみます(→ピタゴラス数の求め方とその証明)。

定理

a2+b2=c2a^2+b^2=c^2 を満たす正の整数の組の中で a,b,ca,b,c の最大公約数が1のものは,正の整数 m,nm,n を用いて a=m2n2,b=2mn,c=m2+n2a=m^2-n^2,b=2mn,c=m^2+n^2
(または b=m2n2,a=2mn,c=m2+n2b=m^2-n^2,a=2mn,c=m^2+n^2

という形で表せる。

証明

a2+b2=c2a^2+b^2=c^2

(a+bi)(abi)=c2(a+bi)(a-bi)=c^2

と変形できる。 (a+bi)(a+bi)(abi)(a-bi) は互いに素(→補足1)であり,それらの積が平方数なので,両方とも平方数(に ±1,±i\pm 1,\pm i のいずれかをかけたもの)である(→補足2)。

(a+bi)(a+bi) が平方数である場合を考える。このとき,整数 m,nm,n を用いて,

(a+bi)=(m+ni)2=m2n2+2mni(a+bi)=(m+ni)^2=m^2-n^2+2mni とおける。つまり,

a=m2n2,b=2mna=m^2-n^2,b=2mn

となる。さらに,c=m2+n2c=m^2+n^2 となる。

b>0b > 0 より m,nm,n は同符号。さらに (m+ni)2=(mni)2(m+ni)^2=(-m-ni)^2 より)m,nm,n は正の整数に取れる。

なお,(a+bi)(a+bi) が平方数 ×(1)\times (-1) のときは mmnn の役割が入れ替わるだけで同じ形の式が得られる。

(a+bi)(a+bi) が平方数 ×(±i)\times (\pm i) のときは aabb の役割が入れ替わる。

補足1

背理法で証明する。 (a+bi)(a+bi)(abi)(a-bi) がともに d(±1,±i)d\:(\neq \pm 1,\pm i) の倍数とすると,和と差を取ることにより,2a2a2bi2bidd の倍数であることが分かる。

aabb は互いに素なものを考えているので,d=2d=2 (または 2,±2i-2,\pm 2i

このとき,(a+bi)(abi)(a+bi)(a-bi)44 の倍数,つまり cc が偶数となる。これは矛盾(44 で割った余りを考えることにより cc は奇数であることが必要→平方剰余)。

補足2

ここでガウス整数における「素因数分解の一意性」を使っている。

アイゼンシュタイン整数環

ガウス整数の ii1122 乗根)の部分を,ω=1+3i2\omega=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2} に変えたものを考えましょう。

つまり,整数 a,ba,b を用いて a+bωa+b\omega と表される複素数をアイゼンシュタイン整数と呼びます。

アイゼンシュタイン整数全体の集合をアイゼンシュタイン整数環と言います。ガウス整数に似た定義・性質があります。

  • a+bωa+b\omega のノルム N(a+bω)N(a+b\omega)a2ab+b2a^2-ab+b^2 で定義される
  • ノルムの乗法性が成立する。
  • 11 の約数を単数と言う。
  • 単数は ±1,±ω,±ω2\pm 1,\pm \omega,\pm \omega^266 つ。ノルムの乗法性からわかる(ガウス整数の場合と似ているが証明がよりおもしろい)。

「せいいき」で変換しても「整域」は出てきませんね。