フレネル積分(sin x^2の積分)

フレネル積分

sinx2dx=π2\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\sin x^2dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2}} cosx2dx=π2\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\cos x^2dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2}}

※被積分関数は (sinx)2(\sin x)^2 ではなく x2x^2 のサインです。

積分は必ずしも計算できるとは限らない

  • フレネル積分は「不定積分はできないが定積分ならできる」例です。

  • 実際,不定積分 sinx2dx\displaystyle\int\sin x^2dx は初等関数で表すことができません。しかし,積分区間を-\infty から \infty にすれば定積分の値は計算できます。

フレネル積分の証明

証明の道具は,

です。残念ながら高校数学の範囲で理解するのは難しいです。

証明

下図のように経路 C=C1+C2+C3C=C_1+C_2+C_3 を定める。

pic4-1

CC が囲む領域で eiz2e^{iz^2} は正則なので C1eiz2dz+C2eiz2dz+C3eiz2dz=0 \oint_{C_1} e^{iz^2} dz +\oint_{C_2} e^{iz^2} dz +\oint_{C_3} e^{iz^2} dz = 0 である。RR\to\infty の極限で3つの項をそれぞれ計算していく。

  • C1C_100RR を結ぶ線分 limRC1eiz2dz=0eix2dx\lim_{ R \to \infty} \int_{C_1} e^{iz^2} dz = \int_0^{\infty} e^{ix^2} dx これはオイラーの公式より, 0cosx2dx+i0sinx2dx\displaystyle\int_0^{\infty}\cos x^2dx+i\displaystyle\int_0^{\infty}\sin x^2dx となりフレネル積分が登場した。

  • C2={zz=R,0<argz<π4}C_2 = \{ z \mid |z| = R , 0 < \arg z < \frac{\pi}{4} \}
    これは RR\to\infty00 に収束する: limRC2eiz2dz=limR0π4eiR2e2iθRieiθdθ=limR0π4eiR2(cos2θ+isin2θ)RieiθdθlimR0π4eiR2(cos2θ+isin2θ)Rieiθdθ=limR0π4ReR2sin2θdθ=0\begin{aligned} &\lim_{R \to \infty} \left| \int_{C_2} e^{iz^2} dz \right| \\&= \lim_{R \to \infty} \left| \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} e^{i R^2 e^{2i\theta}} R i e^{i\theta} d\theta \right|\\ &= \lim_{R \to \infty} \left| \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} e^{i R^2 (\cos 2\theta + i \sin 2\theta)} R i e^{i\theta} d\theta \right|\\ &\leqq \lim_{R \to \infty} \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} \left| e^{i R^2 (\cos 2\theta + i \sin 2\theta)} R i e^{i\theta} \right|d\theta\\ &= \lim_{R \to \infty} \int_0^{\frac{\pi}{4}} Re^{- R^2 \sin 2\theta} d\theta\\ &= 0 \end{aligned}

  • C3C_3(12+i2)R\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}} + \dfrac{i}{\sqrt{2}}\right)R00 を結ぶ線分 limRC3eiz2  dz=limRR0eix2(12+i2)2(12+i2)dx=(12+i2)0ex2x=(12+i2)π2\begin{aligned} &\lim_{R \to \infty} \int_{C_3} e^{iz^2} \; dz \\&= \lim_{R \to \infty} \int_{R}^0 e^{ix^2 (\frac{1}{\sqrt{2}} + \frac{i}{\sqrt{2}} )^2} \left( \dfrac{1}{\sqrt{2}} + \dfrac{i}{\sqrt{2}} \right) dx \\ &= \left( \dfrac{1}{\sqrt{2}} + \dfrac{i}{\sqrt{2}} \right) \int_{\infty}^0 e^{-x^2} x\\ &= -\left( \dfrac{1}{\sqrt{2}} + \dfrac{i}{\sqrt{2}} \right) \dfrac{\sqrt{\pi}}{2} \end{aligned}

以上より 0cosx2dx+i0sinx2dx=(12+i2)π2\displaystyle\int_0^{\infty}\cos x^2dx+i\displaystyle\int_0^{\infty}\sin x^2dx\\ =\left( \dfrac{1}{\sqrt{2}} + \dfrac{i}{\sqrt{2}} \right) \dfrac{\sqrt{\pi}}{2}

sinx2\sin x^2cosx2\cos x^2 は偶関数であることに注意して,実部と虚部をそれぞれ比較すると sinx2dx=cosx2dx=π2\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\sin x^2dx=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\cos x^2dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2}}

参考:留数定理を用いた三角関数の積分

フレネル積分の応用

  • より一般に,
    X(t)=0tsink2dkX(t)=\displaystyle\int_{0}^{t}\sin k^2dk Y(t)=0tcosk2dkY(t)=\displaystyle\int_{0}^{t}\cos k^2dk をフレネル積分ということもあります。 この式で t=t=\infty とすると冒頭の式より,
    X()=Y()=12π2X(\infty)=Y(\infty)=\dfrac{1}{2}\sqrt{\dfrac{\pi}{2}} となることが分かります。

  • こちらの一般化されたフレネル積分は,光学でも登場する積分らしいです。つまり,「単に数学的に綺麗だから考えてみた」よりも重要な意味を持つ積分と言えます。

  • また,フレネル積分を用いて有名な曲線が定義されます。具体的には,媒介変数 tt を用いて x=X(t),y=Y(t)x=X(t), y=Y(t) と表される曲線を考えます。この曲線はクロソイド曲線(またはオイラーの螺旋)と呼ばれる有名な曲線です。ハンドルを等速で回転させ続けたときに車が通る軌道です。→クロソイド曲線の性質とその証明

関連する積分

2乗に係数がつく積分

a>0a>0 に対して,フレネル積分において t2=ax2t^2=ax^2 と置換することで以下を得ます: sin(ax2)dx=π2a\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\sin (ax^2)dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2a}} cos(ax2)dx=π2a\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\cos (ax^2)dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2a}}

2乗がr乗になった積分

11 より大きい任意の実数 rr に対して, 0sin(xr)dx=Γ(1+1r)sinπ2r\displaystyle\int_{0}^{\infty}\sin (x^r)dx=\Gamma\left(1+\dfrac{1}{r}\right)\sin\dfrac{\pi}{2r} 0cos(xr)dx=Γ(1+1r)cosπ2r\displaystyle\int_{0}^{\infty}\cos (x^r)dx=\Gamma\left(1+\dfrac{1}{r}\right)\cos\dfrac{\pi}{2r} が成立します。Γ(32)=π2\Gamma\left(\dfrac{3}{2}\right )=\dfrac{\sqrt{\pi}}{2} であり(→ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質),この結果はフレネル積分(r=2r=2 の場合)の一般化になっています。 フレネル積分の証明では中心角 π4\dfrac{\pi}{4} の扇形を考えましたが,中心角 π2r\dfrac{\pi}{2r} の扇形を考えることでこの式を導出できます。

ガウス積分

フレネル積分の式に似ている定積分として,ガウス積分: eax2dx=πa\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-ax^2}dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{a}} が挙げられます。フレネル積分の証明でも登場しました。

ガウス積分の公式を用いてフレネル積分の公式を形式的に導出してみます。

フレネル積分の(厳密ではない)導出

ガウス積分の式で「形式的に a=ia=-i としてみる」と,eix2dx=πi\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{ix^2}dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{-i}} オイラーの公式と複素指数関数を用いて上式の左辺を変形するとフレネル積分が出現する!:

eix2dx=cosx2dx+isinx2dx\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{ix^2}dx=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\cos x^2dx+i\int_{-\infty}^{\infty}\sin x^2dx

よって,あとは πi=πi\sqrt{\dfrac{\pi}{-i}}=\sqrt{\pi i} を計算すればよい。複素数平面または代数計算により πi=±π2(1+i)\sqrt{\pi i}=\pm\sqrt{\dfrac{\pi}{2}}(1+i)

ここで「プラスの方を採用」して実部と虚部をそれぞれ比較するとフレネル積分の公式となっている。

※上記は「形式的に a=ia=-i としてみる」「プラスの方を採用」という部分が厳密な議論ではありません。しかし,ガウス積分とフレネル積分の間におもしろい関係があることが分かりました。

実数の積分を求めたいだけなのに,複素数の話を持ち出すことでうまくいってしまう,という複素数の偉大さを示す例です。

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