オイラーの公式と複素指数関数

とても有名なオイラーの公式オイラーの等式について高校数学の範囲でわかるように説明します。

オイラーの公式・等式

オイラーの公式とオイラーの等式

まずは,結論です。

オイラーの公式

任意の実数 θ\theta に対して,
eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta

オイラーの公式で θ=π\theta=\pi としたものがオイラーの等式です。

オイラーの等式

eπi=1e^{\pi i}=-1

ネイピア数 ee,円周率 π\pi,虚数単位 ii がすべて現れます。 3つの数が1つのシンプルな等式に現れるのはとても美しいです。ネイピア数と虚数単位は高校数学で習います。

複素数の指数関数(複素指数関数)

  • 高校数学では三角関数や指数関数を習いますが,その定義域は実数です。実は,一般に複素数 zz の三角関数 sinz,cosz\sin z,\cos z や指数関数 eze^z を考えることもできます。

  • オイラーの公式の左辺には eiθe^{i\theta} という複素数の指数関数が登場します。つまり,オイラーの公式を理解するには,複素数の指数関数の意味を知っている必要があります。

複素数の指数関数

複素数 z=a+biz=a+bi に対して,指数関数 eze^z は以下の式で定義される:
e(a+bi)=ea(cosb+isinb)e^{(a+bi)}=e^a(\cos b+i\sin b)

ただし,a,ba,b は実数です。右辺は実数の指数関数 eae^a と,三角関数 cosb,sinb\cos b,\sin b からなります。

【発展】上記の「複素数の指数関数」の式の理由

  • 少し難しいですが,上記の式を定義と考えるよりも,eze^z をマクローリン展開(テイラー展開)によって定義して,そこから e(a+bi)=ea(cosb+isinb)e^{(a+bi)}=e^a(\cos b+i\sin b) を導く と考えることが多いです。(詳しくはe^xのマクローリン展開,三角関数との関係をどうぞ)

  • つまり,実数の場合の指数関数 eze^z を解析接続という自然な考え方で複素数に拡張した結果,上式が出てきます。

  • とりあえず「このように定義したら都合が良い」と理解しておきましょう。

オイラーの公式は美しい?

  • 個人的には,一見関係がない三角関数と指数関数の間の関係を表すおもしろい式だと思います。

  • ただし,はじめてオイラーの等式を見たときは複素指数関数を知らなかったため,そのおもしろさを理解できませんでした。

  • オイラーの公式・オイラーの等式のおもしろさをきちんと理解するためには,「なぜ複素指数関数を上式で(あるいはマクローリン展開で)定義するのが自然なのか」を理解する必要があり,けっこうハードルが高いです。

  • eπie^{\pi i} の意味を説明できないのに,なんとなく「オイラーの等式が美しい」などと言うのには違和感があります。

オイラーの公式の証明

2つの立場からオイラーの公式を証明します。

「複素数の指数関数」の定義を採用する

証明

定義より

e(a+bi)=ea(cosb+isinb)e^{(a+bi)}=e^a(\cos b+i\sin b)

であったから,a=0a=0 とすればオイラーの公式:
eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta
を得る(つまらない)。

マクローリン展開を利用する

証明

マクローリン展開
ez=1+z+z22!+z33!+e^z=1+z+\dfrac{z^2}{2!}+\dfrac{z^3}{3!}+\cdots
を定義とする立場の場合,頑張って計算すると

eiθ=1+iθ+(iθ)22!+(iθ)33!+(iθ)44!+=(1θ22!+θ44!θ66!+)+i(θθ33!+θ55!θ77!+)=cosθ+isinθ\begin{aligned} e^{i\theta} &= 1+i\theta+\dfrac{(i\theta)^2}{2!}+\dfrac{(i\theta)^3}{3!}+\dfrac{(i\theta)^4}{4!}+\cdots\\ &= \left( 1-\dfrac{\theta^2}{2!}+\dfrac{\theta^4}{4!}-\dfrac{\theta^6}{6!}+\cdots \right)\\ &\quad +i \left(\theta-\dfrac{\theta^3}{3!}+\dfrac{\theta^5}{5!}-\dfrac{\theta^7}{7!}+\cdots \right)\\ &= \cos \theta+i\sin \theta \end{aligned}

おまけ:複素指数関数の微分を使う

複素指数関数についても,実数の場合と同様に「eix=ieixe^{ix}=ie^{ix} が成り立つだろう」という立場で証明してみます。

証明

f(x)=eix(cosx+isinx)f(x)=e^{-ix}(\cos x+i\sin x) とおく。微分すると,

f(x)=eix(sinx+icosx)ieix(cosx+isinx)=0f'(x)=e^{-ix}(-\sin x+i\cos x)-ie^{-ix}(\cos x+i\sin x)=0

となる。よって f(x)f(x) は定数関数。これと f(0)=1f(0)=1 より f(x)=1f(x)=1

よって eix=cosx+isinxe^{ix}=\cos x+i\sin x

yama 先生に教えてもらった証明です。

三角関数について +α+\alpha

ここからはおまけです。指数関数と三角関数の関係をもう少し見てみます。

三角関数の別表示

オイラーの等式を元に考えると,三角関数に関する以下の等式を導けます:

cosθ=eiθ+eiθ2sinθ=eiθeiθ2itanθ=sinθcosθ=eiθeiθi(eiθ+eiθ)\begin{aligned} \cos \theta &= \dfrac{e^{i\theta} + e^{-i\theta}}{2}\\ \sin \theta &= \dfrac{e^{i\theta} - e^{-i\theta}}{2i}\\ \tan \theta &= \dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}=\dfrac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{i(e^{i\theta}+e^{-i\theta})} \end{aligned}

複素数を定義域とする三角関数は上の等式を元に定義します。

指数法則と加法定理

e(a+bi)=ea(cosb+isinb)e^{(a+bi)}=e^a(\cos b+i\sin b)
をもとに,複素指数関数に対しても指数法則
ez1+z2=ez1ez2e^{z_1+z_2}=e^{z_1}e^{z_2}
が成立することを証明します。

証明

z1=a1+ib1,z2=a2+ib2z_1=a_1+ib_1, z_2=a_2+ib_2 とおくと,左辺は

ez1+z2=ea1+a2+i(b1+b2)=ea1+a2{cos(b1+b2)+isin(b1+b2)}\begin{aligned} &e^{z_1+z_2}\\ &=e^{a_1+a_2+i(b_1+b_2)}\\ &=e^{a_1+a_2}\{\cos(b_1+b_2)+i\sin(b_1+b_2)\} \end{aligned}

右辺は,

ez1ez2=ea1(cosb1+isinb1)ea2(cosb2+isinb2)=ea1+a2{(cosb1cosb2sinb1sinb2)+i(sinb1cosb2+cosb1sinb2)}\begin{aligned} &e^{z_1}e^{z_2}\\ &=e^{a_1} (\cos b_1+i\sin b_1) e^{a_2} (\cos b_2+i\sin b_2)\\ &=e^{a_1+a_2}\{(\cos b_1\cos b_2-\sin b_1\sin b_2)\\ &\quad +i(\sin b_1\cos b_2+\cos b_1\sin b_2)\} \end{aligned}

よって三角関数の加法定理から,指数法則が成立することが分かる。

つまり,複素指数関数の指数法則と実三角関数の加法定理は本質的には同じです。

また,関連する話題として,ド・モアブルの定理をより簡潔に解釈できます。 →ド・モアブルの定理の意味と証明

おもしろい応用例として,三角関数を指数関数に変身させることで和を求めるというテクニックがあります。 →三角関数の和と等比数列の公式

複素指数関数と複素三角関数

複素指数関数の性質

複素指数関数の演算は実数の場合の指数関数と同じようにできます。

実数での微分, 積分

deztdt=zezteztdt=eztz+C\begin{aligned} \dfrac{de^{zt}}{dt} &= ze^{zt}\\ \int e^{zt}dt &= \dfrac{e^{zt}}{z}+C \end{aligned}

証明は定義式を用いて単純に計算するだけなので,ぜひ一度やってみてください。

実数での微分や積分は上記のように簡単に計算できますが,複素数での微分,積分を理解するには複素解析を学ぶ必要があります。

複素三角関数の性質

前述した通り複素数上で三角関数は次のように定義します。

cosz=eiz+eiz2sinz=eizeiz2itanz=eizeizi(eiz+eiz)\begin{aligned} \cos z &= \dfrac{e^{iz} + e^{-iz}}{2}\\ \sin z &= \dfrac{e^{iz} - e^{-iz}}{2i}\\ \tan z &= \dfrac{e^{iz} - e^{-iz}}{i(e^{iz} + e^{-iz})} \end{aligned}

これを踏まえて次の例題を解いてみましょう。

例題

cosz=2\cos z = 2 を複素数の範囲で解け。

eiz=te^{iz} = t とおく。

cosz=eiz+eiz2\cos z =\dfrac{e^{iz} + e^{-iz}}{2} より,cosz=2\cos z = 2t+t12=2\dfrac{t + t^{-1}}{2} = 2 と表せる。

整理すると t24t+1=0t^2 - 4t + 1=0 となる。解くと t=2±3t = 2 \pm \sqrt{3} となる。

よって eiz=2±3e^{iz} = 2 \pm \sqrt{3} である。

実数 x,yx,y を用いて z=x+yiz = x+ yi とおくと eiz=eixy=ey(cosx+isinx) e^{iz} = e^{ix - y} = e^{-y} (\cos x + i \sin x)

これを踏まえると x=2nπx = 2n\pi となる。また ey=2±3e^{-y} = 2 \pm \sqrt{3} となる。

以上より z=ilog(2±3)+2nπ z = -i \log (2\pm \sqrt{3}) + 2n\pi となる。

このように複素数上では cos\cossin\sin11 より大きい値を取ることがあります。

なお,以下のように周期性を持つこともわかります。

cos(z+2π)=ei(z+2π)+ei(z+2π)2=eize2πi+eize2πi2=eiz+eiz2=cosz\begin{aligned} \cos (z + 2\pi) &= \dfrac{e^{i(z+2\pi)} + e^{-i(z+2\pi)}}{2}\\ &= \dfrac{e^{iz}e^{2\pi i} + e^{-iz} e^{-2\pi i}}{2}\\ &= \dfrac{e^{iz} + e^{-iz}}{2}\\ &= \cos z \end{aligned}

指数法則を仮定すれば,加法定理も成立します。

cos(z1+z2)=ei(z1+z2)+ei(z1+z2)2=eiz1eiz2+eiz1eiz22=12(cosz1+isinz1)(cosz2+isinz2)+12(cosz1isinz1)(cosz2isinz2)=cosz1cosz2sinz1sinz2\begin{aligned} \cos (z_1 + z_2) &= \dfrac{e^{i(z_1 + z_2)} + e^{-i (z_1 + z_2)}}{2}\\ &= \dfrac{e^{iz_1}e^{iz_2} + e^{-iz_1}e^{-iz_2}}{2}\\ &= \dfrac{1}{2} (\cos z_1 + i \sin z_1) (\cos z_2 + i \sin z_2)\\ &\quad + \dfrac{1}{2} (\cos z_1 - i \sin z_1)(\cos z_2 - i \sin z_2)\\ &= \cos z_1 \cos z_2 - \sin z_1 \sin z_2 \end{aligned}

ここでは cosz\cos z の計算のみでしたが,他の三角関数でも同様に計算できます。是非やってみてください。

発展的な内容を知りたい人へ

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オイラーの公式は美しい公式の代表として紹介されることも多いです。私もおもしろいと思いますが,他にもおもしろい式はたくさんあります。

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