相加相乗平均の不等式と呼ばれる最も有名な不等式を紹介します。
分野: 不等式
相加相乗平均の不等式(AM-GM不等式)の応用の一例として,特殊な形の関数の最小値を求める方法を紹介します。
シュワルツの不等式:
${\displaystyle(\sum_{i=1}^n a_i^2)}{\displaystyle(\sum_{i=1}^n b_i^2)}\geq{\displaystyle(\sum_{i=1}^n a_ib_i)^2}\\$
3変数の対称な不等式(または巡回式)証明の問題は2変数の不等式を3つ足し合わせる,または掛け合わせることで証明することが多い
条件付きの対称な不等式の証明問題は,全ての項の次数を一致させる(斉次式にする)と見通しがよくなることが多い。(斉次式化)
Schur(シュール)の不等式:
$r>0, x, y, z\geq0$ に対して,
$x^r(x-y)(x-z)+y^r(y-z)(y-x)+z^r(z-x)(z-y)\geq 0$ 等号成立条件は,
$x=y=z$ or $x, y, z$ のうち1つが0で残りの2つが等しい場合。
追記:$r > 0$ という条件は不要でした。任意の実数 $r$ に対して成立します。($r\leq 0$ のとき等号成立条件は $x=y=z$)
イェンゼンの不等式(Jensen,凸関数の不等式)
$f(x)$ が凸関数のとき,
任意の $\lambda_i\geq 0,\:x_i\:(i=1,\cdots,n),\:\displaystyle\sum_{i=1}^n\lambda_i=1$
に対して,
${\displaystyle\sum_{i=1}^{n}\lambda_if(x_i)}\geq f({\displaystyle\sum_{i=1}^{n}\lambda_ix_i})$
三角形の各辺の長さが変数の不等式証明問題は,Ravi変換と呼ばれる以下の置き換えを用いるとほとんどの場合でうまくいく。
Ravi変換:$a=x+y, b=y+z, c=z+x$
重み付き相加相乗平均の不等式:
非負実数 $a_1, a_2,\cdots, a_n$ と重み $w_1, w_2, \cdots, w_n$ に対して以下の不等式が成立する。
$\displaystyle\sum_{i=1}^nw_ia_i\geq \displaystyle\prod_{i=1}^na_i^{w_i}$
等号成立条件は $a_1=a_2=\cdots =a_n$
シュワルツの不等式の応用例として頻出な形を紹介します。
分数の和を下から抑える公式:
$b_i>0 (i=1\cdots n)$ のとき,以下の不等式が成立する。
$\sum\dfrac{a_i^2}{b_i}\geq \dfrac{(\sum a_i)^2}{\sum b_i}$
等号成立条件は $\overrightarrow{a}$ と $\overrightarrow{b}$ が平行であること。
シグマの和は $1$ から $n$ まで取る。
次の不等式は有名で応用上重要なので頭の引き出しに入れておきたいところです:
任意の実数 $a, b, c$ に対して,
$a^2+b^2+c^2\geq ab+bc+ca$
等号成立条件は,$a=b=c$
Muirheadの不等式:
各成分が非負で非増加な数列 $a=(a_1, a_2,\cdots , a_n), b=(b_1, b_2,\cdots, b_n)$ と,任意の非負実数 $x_1, x_2, \cdots, x_n$ に対して,$[a]\succeq [b]$ ならば
$\displaystyle\sum_{sym}\prod_{i=1}^nx_i^{a_i}\geq\displaystyle\sum_{sym}\prod_{i=1}^nx_i^{b_i}\\$
等号成立条件は,$a=b$ または, $x_1=x_2=\cdots=x_n$
この不等式は一見抽象的で意味不明ですが,具体的に書いてみればなんてことありません。要するに,「対称式ならベキが偏っている方が大きい」ということです。
Nesbittの不等式:
$a, b, c>0$ のとき以下の不等式が成立する。
$\dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\geq \dfrac{3}{2}$
並べ替え不等式(rearrangement inequality):
$x_1\geq x_2\geq\cdots\geq x_n\\y_1\geq y_2\geq\cdots \geq y_n$,
$1, 2, \cdots, n$ の並べ替え $\sigma(1), \sigma(2), \cdots, \sigma(n)$ に対して,
$\displaystyle\sum_{i=1}^nx_iy_i\geq\sum_{i=1}^nx_iy_{\sigma(i)}\geq\sum_{i=1}^nx_iy_{n-i+1}$
チェビシェフの不等式(Chebyshev’s sum inequality):
$x_1\geq x_2\geq\cdots\geq x_n\\y_1\geq y_2\geq\cdots \geq y_n$,
に対して,
$\dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{i=1}^nx_iy_i\geq(\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^nx_i)(\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^ny_i)\geq\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^nx_iy_{n+1-i}$
ヘルダーの不等式:
$a_{ij}\geq 0,w_i > 0, \displaystyle\sum_{i=1}^mw_i=1$ のとき,
$\displaystyle\prod_{i=1}^m(\sum_{j=1}^na_{ij})^{w_i}\geq \sum_{j=1}^n(\prod_{i=1}^ma_{ij}^{w_i})$
等号成立条件は
$m$ 本のベクトル$(a_{1j},a_{2j},\cdots,a_{nj})\:(j=1,2,\cdots ,m)$ たちが全て平行
一般形はとても複雑なので理解できなくても構いません,頻出系を覚えて下さい!
条件式 $abc=1$ を持つ不等式証明の問題では以下のいずれかの変換を用いるとうまくいく場合が多い。
変換1:$a=\dfrac{x}{y}, b=\dfrac{y}{z}, c=\dfrac{z}{x}$
変換2:$a=\dfrac{1}{x}, b=\dfrac{1}{y}, c=\dfrac{1}{z}$
Cauchy Reverse Techniqueは分数の和を下からおさえるときに使える不等式証明のテクニックです。
数学オリンピックの不等式証明問題は $3$ 変数のものとn変数のものがほとんどです。
isolated fudging:
$f(a, b, c)+f(b, c, a)+f(c, a, b)\geq k$
を証明する代わりに
$f(a, b, c)\geq \dfrac{ka^r}{a^r+b^r+c^r}$
を証明する手法
ルートの和を上からおさえる公式:
$a\sqrt{x}+b\sqrt{y}\leq\sqrt{(a^2+b^2)(x+y)}$
Karamataの不等式:
- $[a]\succeq [b]$ を満たす実数の列 $a=(a_1, a_2,\cdots , a_n), b=(b_1, b_2,\cdots, b_n)$
- $f(x)$ は微分可能で凸
このとき,
$f(a_1)+f(a_2)+\cdots +f(a_n)\geq f(b_1)+f(b_2)+\cdots +f(b_n)$
このページではKaramataの不等式の意味,応用例,証明を解説します。
ニュートン(Newton)の不等式:
$n$ 変数の $k$ 次の基本対称式を $S(n,k)$ とおき,$d(n,k)=\dfrac{S(n,k)}{{}_n\mathrm{C}_{k}}$ とおく。
このとき, $d(n,k)^2\geq d(n,k-1)d(n,k+1)$
等号成立条件は全ての変数の値が等しいことです。
ミンコフスキー(Minkowski)の不等式:
$1\leq p\leq\infty$ のとき,
$\|x+y\|_p\leq\|x\|_p+\|y\|_p$
三角不等式の一般化です。
三角不等式:
$x$ の「大きさ」を $\|x\|$ と書くとき,いろいろな「大きさ」に対して以下の不等式が成立する
$\|x+y\|\leq\|x\|+\|y\|$
高校数学のいろいろな場面で登場する三角不等式を統一的に見てみます。
問題
非負実数 $a,b,c$ に対して
$\sqrt[3]{(\dfrac{a+b}{2})(\dfrac{b+c}{2})(\dfrac{c+a}{2})}\geq\dfrac{\sqrt{ab}+\sqrt{bc}+\sqrt{ca}}{3}$
を証明せよ。
良質な練習問題です,数オリ対策にどうぞ。
数学オリンピックから不等式の難問を3問ほど解説します。かなりレベルの高い記事です。
累乗平均の不等式(power mean inequality):
任意の非負の実数 $x_k$ たちと正の実数 $p$ に対して
$f(p)=\left(\dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{k=1}^nx_k^p\right)^{\frac{1}{p}}$
とおくと $f(p)$ は単調増加
ベルヌーイの不等式:
任意の正の整数 $n$ と$-1$ より大きい実数 $x$ に対して,
$(1+x)^n\geq 1+nx$
二次不等式を解く際の二通りの考え方を解説します。二つとも結局やることは同じになりますが,考え方は違います!
分数を含む不等式は通分して解くと場合分けしなくてすむのでおすすめ。
マクローリン(Maclaurin)の不等式
$n$ 変数 $k$ 次の基本対称式を ${}_n\mathrm{C}_k$ で割ったものを $d_k$ とする。このとき,
$d_1\geq d_2^{\frac{1}{2}}\geq d_3^{\frac{1}{3}}\geq\cdots\geq d_n^{\frac{1}{n}}$
フランダース(Flanders)の不等式:
任意の三角形 $ABC$ について,
$\sin A\sin B\sin C\leq\left(\dfrac{3\sqrt{3}}{2\pi}\right)^3ABC$
Abi-Khuzam の不等式とも言います。右辺の $ABC$ は,角 $A$,角 $B$,角 $C$ それぞれの(弧度法での)大きさの積という意味です。角度とその $\sin$ が混在している幾何不等式です。