ブライスのパラドックス

ブライスのパラドックス(Braess's paradox)

移動時間短縮のために新しい道路を作った結果,移動時間がかえって長くなってしまうことがある。

問題設定

ブライスのパラドックスの設定

  • SS から TT1010 人の人が移動する。

  • AA を経由する経路と BB を経由する経路の2通りある。各々好きなルートを選べる。

  • SBS\to BATA\to T の移動には 1010 分かかる。

  • SAS\to ABTB\to T の道路は細いので交通量が多いと渋滞する。通る人数を xx 人とすると xx 分かかる。

  • 1010 人の移動時間の平均に興味がある。

新しい道路を作る前

上記の問題設定において,各々の移動時間は 1515 分。

説明

上のルートを xx 人,下のルートを 10x10-x 人が選ぶとする。このとき,上のルートは x+10x+10 分,下のルートは 20x20-x 分かかる。

よって,もし x>5x > 5 ならば上のルートを通るつもりだった人は下のルートに変更することで時間短縮できる。もし x<5x < 5 ならば下のルートを通るつもりだった人は上のルートに変更することで時間短縮できる。

よって,上に 55 人,下に 55 人行くことになり(→注),各々の所要時間は 1515 分。

注:最初は偏りが生じているかもしれませんが,毎日通勤している中で周りの状況を把握し,多くの人は空いている道に変更するでしょう。

新しい道路を作った後

ブライスのパラドックス

移動時間短縮のため,AA から BB に新しい道を作ります。新しい道の移動にかかる時間は 00 分とします。現実には 00 分ということはありえませんが,AABB は十分近いので無視できるくらいの時間で移動できると考えてください。

新しい道を作った後,各々の移動時間は 2020 分。

なんと,道を作る前よりも 55 分も増えてしまっています!

説明

x10x\leqq 10 なので,SBS\to B と移動するよりは SABS\to A\to B と移動した方がよい。同様に,ATA\to T と移動するよりは ABTA\to B\to T と移動したほうがよい。

よって,全員 SABTS\to A\to B\to T と移動する。このとき,移動時間は全員 2020 分。

各々が自分の利益だけを考えて移動することによって,残念な結果を招いています。

おまけ:おもりが上がる

上記の問題と同じ数式で説明できる不思議な現象として 糸を切ったらぶら下げているおもりが上がる仕掛けを紹介します。

パラドックスの実証

  • 緑:バネ定数が 11 の(自然長がほぼ 00 の)バネ

  • 赤:長さがほぼ 00 の糸

  • 青:長さが 1010+ϵ+\epsilon ) の糸

  • 黒丸:重さ 1010 のおもり

赤い糸を切る前:重さ 1010 のおもりによって,22 本のバネはそれぞれ 1010 伸びる(青い糸はたるんでいる)。天井からおもりの距離は(ほぼ)2020

赤い糸を切った後:直列接続だったバネが並列接続になる。バネはそれぞれ 55 しか伸びない。天井からおもりの距離は(ほぼ)1515

道路の場合との対応を確認してみてください!

新しい選択肢が増えた結果,かえって不幸な結果を招くということも。

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