2016/01/05

行列が正則であることの同値な条件と証明

分野: 線形代数  レベル: 大学数学

$n\times n$ の正方行列 $A$ に対して以下の条件は同値である:

  1. $AB=BA=I$(単位行列)となる行列 $B$ が存在する
  2. $\det A\neq 0$
  3. $\mathrm{rank}\:A=n$
  4. $\mathrm{Ker}\:A=\{\overrightarrow{0}\}$
  5. 全ての $A$ の固有値が $0$ でない

正則行列

上の5つのいずれか(したがって全て)の条件を満たす行列 $A$ を正則行列と言います。1を正則行列の定義としている文献が多い気がします。

与えられた行列が正則かどうかを判定する際には,条件3を確認する(ランクを計算する)のがよいでしょう。

以下では1から5の同値性を証明していきます。2ならば1の証明については概要のみ示します。

5つの条件が同値であることの証明

まずは1と2の同値性を証明します。

1ならば2の証明

積の行列式は行列式の積と等しいので $AB=I$ となるとき,
$\det A\det B=\det I=1$
よって $\det A\neq 0$

2ならば1の証明

$\det A\neq 0$ のとき,$B=\dfrac{\tilde A}{\det A}$
(ただし $\tilde A$ は $A$ の余因子行列,つまり $ij$ 成分が「 $A$ から $j$ 行目と $i$ 列目を除いた行列の行列式に$(-1)^{i+j}$ をかけたもの」である行列)
とおくと,$AB=BA=I$ となることが確認できる(→補足)。

補足:ラプラス展開を使うことで確認できます。詳しくは線形代数の教科書を参照してください。


次に2と3の同値性です。前提知識:ランク標準形

2 $\iff $3の証明

行列式が $0$ でない行列 $S,T$ をうまく取ってくると
$SAT=\begin{pmatrix}I&O\\O&O\end{pmatrix}$
という形にできる(ランク標準形)。 $I$ の部分の行数(列数)がランクである。→行列のランクの意味(8通りの同値な定義)

また,積の行列式は行列式の積と等しいので
$\det S\det A\det T=\det \begin{pmatrix}I&O\\O&O\end{pmatrix}$
となる。よって,$\det A\neq 0$ であることと $A$ のランクが $n$ であること(右辺の行列が単位行列になる)は同値。


次に3と4の同値性です。前提知識:次元定理

3 $\iff $4の証明

次元定理より,$\mathrm{rank}\:A=n-\mathrm{dim}(\mathrm{Ker} A)$
よって,$\mathrm{rank}\: A=n$ であることと $\mathrm{Ker}\:A$ の次元が $0$ であることは同値。


最後に2と5の同値性を証明することで5を仲間に入れます。

2 $\iff $5の証明

$A$ の固有値を $\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ とすると,
$\det A=\lambda_1\cdots \lambda_n$ である(→補足)。
(行列式は固有値の積)

よって $\det A\neq 0$ と,全ての $A$ の固有値が $0$ でないことは同値。

補足:固有値は $n$ 次方程式 $\det (A-\lambda I)=0$ の解です。→固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法
$\det (A-\lambda I)$ の $n$ 次の項が$(-1)^n\lambda^n$,定数項が $\det A$ であることと解と係数の関係から分かります。

数学における「正則」という言葉にはいろいろな意味があります。(正則行列,正則関数,正則グラフなど)
分野: 線形代数  レベル: 大学数学