2015/12/12

行列の指数関数とその性質

分野: 線形代数  レベル: 大学数学

行列の指数関数:
正方行列 $A$ に対して, $e^{A}=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{A^k}{k!}$ $\:=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\dfrac{A^3}{3!}+\cdots$
と定義する。

行列の指数関数について

  • 任意の正方行列 $A$ に対して $A$ と同じサイズの行列の無限和 $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{A^k}{k!}$ は収束することが知られています。そのため,任意の $A$ に対して $e^A$ を考えることができます。
  • $A$ のサイズが $1\times 1$ のときは通常の指数関数と一致します。
  • $A=\mathrm{diag}(a_1,\cdots, a_n)$($a_1$ から $a_n$ を対角成分とする対角行列)のとき,$A^k=\mathrm{diag}(a_1^k,\cdots, a_n^k)$ なので,$e^A=\mathrm{diag}(e^{a_1},\cdots,e^{a_n})$ となります。
    似たような話が上三角行列の対角成分についても成り立ちます(後で使う)。

指数法則は成り立たない

実数 $a,b$ に対しては指数法則 $e^{a+b}=e^ae^b$ が成立しますが,行列 $A,B$ に対しては $e^{A+B}=e^Ae^B$ は一般には成立しません。

ただし,$A$ と $B$ が交換可能(つまり $AB=BA$)な場合は $e^{A+B}=e^Ae^B$ が成立します。

相似変換に関する性質

$A=PBP^{-1}$ のとき $e^A=Pe^{B}P^{-1}$

導出

$e^A=e^{PBP^{-1}}\\
=I+(PBP^{-1})+\dfrac{(PBP^{-1})^2}{2!}+\dfrac{(PBP^{-1})^3}{3!}+\cdots$

ここで,$(PBP^{-1})^k=PB^{k}P^{-1}$ なので上式は,
$P\left(I+B+\dfrac{B^2}{2!}+\dfrac{B^3}{3!}+\cdots\right)P^{-1}=Pe^{B}P^{-1}$
となる。

$e^A$ が正則であること

$\det (e^A)=e^{\mathrm{tr}\:A}$

美しい公式です。そして,この公式から $\det (e^A)> 0$ が分かるので $e^A$ が正則であることも分かります!

証明

先ほどの相似変換に関する性質を使う。 $A=PJP^{-1}$($J$ は $A$ のジョルダン標準形)とすると,
$e^{A}=Pe^{J}P^{-1}$
である。両辺の行列式を考えると,$\det (e^A)=\det (Pe^{J}P^{-1})$
となる。積の行列式は行列式の積なので上式の右辺は $\det (e^J)$ と等しい。

ここで,$J$ は上三角行列であり対角成分は $A$ の固有値 $\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ である。よって,$e^J$ も上三角行列で対角成分は $e^{\lambda_1},\cdots,e^{\lambda_n}$ である。
よって,$\det (e^J)=e^{\lambda_1+\cdots +\lambda_n}=e^{\mathrm{tr}\:A}$
(ただし,最後に「固有値の和=トレース」という性質を用いた→行列のトレースの性質とその証明

ちなみに,$e^{X+Y}$ と $e^Xe^Y$ の間の関係を表す公式にBaker-Campbell-Hausdorffの公式(名前長っ!)というものがあります。
分野: 線形代数  レベル: 大学数学