数値代入法による恒等式の解法と十分性の確認

数値代入法を使うときは十分性の確認が必要。

数値代入法

恒等式になるように変数の値を定める問題を考えます。解き方には主に係数比較法と数値代入法がありますが,この記事では数値代入法に注目します。まずは簡単な例題を1問。

例題1

a(x1)(x2)+b(x1)+c=x23x+1a(x-1)(x-2)+b(x-1)+c=x^2-3x+1

が恒等式となるような a,b,ca,b,c の値を求めよ。

(不完全な)解答

x=1x=1 を代入すると,c=13+1=1c=1-3+1=-1

x=2x=2 を代入すると,b+c=46+1=1b+c=4-6+1=-1

x=0x=0 を代入すると,2ab+c=12a-b+c=1

これを解くと,c=1,b=0,a=1c=-1,b=0,a=1

十分性の確認について

例題1の解答において「恒等式ならば a=1,b=0,c=1a=1,b=0,c=-1 」は分かりましたが,その逆「a=1,b=0,c=1a=1,b=0,c=-1 なら恒等式」は言えていません。

x=0,1,2x=0,1,2 で与式が成立することは保証していますが,恒等式(つまり任意の実数 xx について成立すること)であることはまだ保証できていないのです。

そこで,以下のいずれかの対処法が必要になります。

・対処法1:十分性をきちんと確認する

(解答の続き)

実際 a=1,b=0,c=1a=1,b=0,c=-1 をもとの式に代入すると,左辺は (x1)(x2)1=x23x+1(x-1)(x-2)-1=x^2-3x+1 となり右辺と一致する。よって,確かに与式は恒等式となっている。

・対処法2:飛び道具を使って十分性を確認する

(解答の続きバージョン2)

xx についての二次式= xx についての二次式」という等式が異なる三つの xx について成立するならそれは恒等式である(→後述)。今,a=1,b=0,c=1a=1,b=0,c=-1 のとき x=0,1,2x=0,1,2 という三つの値で等式が成立するので確かに与式は恒等式である。

・対処法3:係数比較法にする

数値代入法ではなく係数比較法を使えば十分性の確認など不要です。

注:対処法2は知識としては絶対知っておくべきですが,記述式の答案としてはあまりオススメできません(飛び道具を使うわりにけっこうな長文を書かないといけないので)。

飛び道具

上の対処法2で用いた飛び道具について,より一般的な形で説明します。

定理

P(x),Q(x)P(x),Q(x)xx についての nn 次式とする。このとき,P(x)=Q(x)P(x)=Q(x) という等式が異なる n+1n+1 個の xx について成立するなら,それは恒等式である。

例題1では n=2n=2 の場合を用いました。

証明

P(x)P(x)Q(x)Q(x)xx についての nn 次式とする。

P(x)=Q(x)P(x)=Q(x) という等式が異なる n+1n+1 個の x1,x2,,xn+1x_1 , x_2, \cdots , x_{n+1} について成立すると仮定する。

R(x)=P(x)Q(x)R(x) = P(x) - Q(x) とおくと,仮定より R(xk)=0R(x_k) = 0 である(1kn+11 \leqq k \leqq n+1)。

よって因数定理より, R(x)=a(xx1)(xx2)(xxn+1) R(x) = a (x - x_1) (x - x_2) \cdots (x- x_{n+1})

ここで,a0a \neq 0 と仮定すると R(x)R(x)n+1n+1 次の多項式である。

一方 P(x)P(x)Q(x)Q(x)nn 次の多項式であったため,R(x)R(x) は高々 nn 次の多項式である。

これらは矛盾するため a=0a = 0 である。よって,P(x)=Q(x)P(x) = Q(x)

この定理の証明は二次関数の決定とその背景にも登場します。ヴァンデルモンド行列を使うことでも証明できます。

私は係数比較法の方が好きです。