シムソンの定理とその2通りの証明

シムソンの定理

シムソンの定理

三角形 ABCABC と点 DD がある。DD から直線 BC,CA,ABBC,\:CA,\:AB に下ろした垂線の足を P,Q,RP,\:Q,\:R とおく。

このとき,DD が三角形 ABCABC の外接円上にあるならば,P,Q,RP,\:Q,\:R は同一直線上にある。この直線をシムソン線と呼ぶ。

シムソンの定理の構図は覚えておくと数学オリンピックでまれに役立ちます。

シムソンの定理とシムソンの定理の逆の証明を二通り解説します。

シムソンの定理の特殊な場合

  • DD が三角形の頂点と一致する場合。例えば D=AD=A の場合,Q,RQ,\:RAA と一致するので,シムソンの定理は成り立ち,シムソン線は AA を通り BCBC に垂直な直線です。

  • DD が三角形の頂点のちょうど反対側にある場合。例えば BDBD が三角形 ABCABC の外接円の直径となる場合(このときの DDEE とおく)。 P=C,R=AP=C,\:R=A となり,シムソンの定理は成り立ち,シムソン線は直線 CACA となります。

シムソンの定理

シムソンの定理とその逆の証明

シムソンの定理の証明を考えます。さきほどの特殊で自明な場合を除くと,対称性より DD が弧 CECE (の内点)にある場合のみ考えればOKです。このとき,CECEPDPD は平行なので PP は円の外側にあり,AEAERDRD は平行なので RR は円の内側にあります。

ついでに以下のシムソンの定理の逆も証明します。

シムソンの定理の逆

上記の設定において P,Q,RP,\:Q,\:R が同一直線上にあるなら DD は三角形 ABCABC の外接円上にある。

証明1:図形的な方法

方針

直角二つで同一円周上の4点が作られることに注目します。シムソンの定理の条件を言い換えて定理と逆を同時に証明します。

証明

シムソンの定理の証明

まず,

DD が三角形 ABCABC の外接円上にある
    BCD+BAD=180\iff \angle BCD+\angle BAD=180^{\circ}

である。

また,

P,Q,RP,\:Q,\:R が同一直線上にある
    PQD+RQD=180\iff \angle PQD+\angle RQD=180^{\circ}

である。

この2つが互いに必要十分条件であることを言えばよい。

円周角の定理の逆より A,D,Q,RA,\:D,\:Q,\:R は同一円周上にあるので,BAD+RQD=180\angle BAD+\angle RQD=180^{\circ} である。

同様に P,D,Q,CP,\:D,\:Q,\:C は同一円周上にあるので,PQD=PCD=180BCD\angle PQD=\angle PCD=180^{\circ}-\angle BCD である。

以上2つの式より,

BCD+BAD+PQD+RQD=360 \angle BCD+\angle BAD+\angle PQD+\angle RQD=360^{\circ}

となり証明完了。

証明2:複素数平面による方法

計算を使えば場合分けは不要です。直交座標では同一円周上にあるという条件が扱いにくいので複素数平面で考えます。複素数平面に慣れていないと多少計算に苦労しますが,やるべきことはは一本道です。

証明

三角形 ABCABC の外接円の半径は 11 としても一般性を失わない。 A(α),B(β),C(γ),D(δ)A(\alpha),\:B(\beta),\:C(\gamma),D(\delta) とおく。

α=1α,β=1β,γ=1γ\overline{\alpha}=\dfrac{1}{\alpha},\overline{\beta}=\dfrac{1}{\beta},\overline{\gamma}=\dfrac{1}{\gamma} に注意する。

DD から BCBC に下ろした垂線の足 PP の複素座標は,

p=12(β+γ+δβγδ) p = \dfrac{1}{2} (\beta+\gamma+\delta-\beta\gamma\overline{\delta}) である。(注)

同様に,QQ の座標は,

q=12(γ+α+δγαδ) q = \dfrac{1}{2} (\gamma+\alpha+\delta-\gamma\alpha\overline{\delta})

RR の座標は,

r=12(α+β+δαβδ) r = \dfrac{1}{2} (\alpha+\beta+\delta-\alpha\beta\overline{\delta})

よって,

pq=12(βα)(1γδ)qr=12(γβ)(1αδ) p-q = \dfrac{1}{2} (\beta-\alpha) (1-\gamma\overline{\delta})\\ q-r = \dfrac{1}{2} (\gamma-\beta) (1-\alpha\overline{\delta})

したがって,

P,Q,RP,\:Q,\:R が同一直線上にある
    pqqr\iff \dfrac{p-q}{q-r} が実数
    (pq)(qr)=(qr)(pq)\iff (p-q)(\overline{q}-\overline{r})=(q-r)(\overline{p}-\overline{q})<bt>     (βα)(1γδ)(γβ)(1αδ)=(γβ)(1αδ)(βα)(1γδ)\begin{aligned} \iff &(\beta-\alpha) (1-\gamma\overline{\delta})(\overline{\gamma} - \overline{\beta}) (1-\overline{\alpha}\delta)\\ &= (\gamma-\beta) (1-\alpha\overline{\delta}) (\overline{\beta}-\overline{\alpha}) (1-\overline{\gamma}\delta) \end{aligned} ()\cdots (\ast)

ここで,γβ=1γ1β=γββγ\overline{\gamma}-\overline{\beta}=\dfrac{1}{\gamma}-\dfrac{1}{\beta}=\dfrac{\gamma-\beta}{\beta\gamma} などに注意して両辺を適当に割り算すると,

上記の条件 ()(\ast)
    α(1γδ)(1αδ)=γ(1αδ)(1γδ)\iff \alpha(1-\gamma\overline{\delta})(1-\overline{\alpha}\delta)=\gamma(1-\alpha\overline{\delta})(1-\overline{\gamma}\delta)
    (1γδ)(αδ)=(1αδ)(γδ)\iff (1-\gamma\overline{\delta})(\alpha-\delta)=(1-\alpha\overline{\delta})(\gamma-\delta)
    (αγ)(1δδ)=0\iff (\alpha-\gamma)(1-\delta\overline{\delta})=0
    δ=1\iff |\delta|=1

となり証明完了。

注の部分は基本的な計算で確認できます。補題として覚えておくとよいでしょう。詳しくは,複素数平面の基本的な公式集をご覧ください。

図形的な証明の方が美しいですが,計算による証明の方が機械的です。どちらも強くなりたいものです。