最終更新:2020/10/18

原始ピタゴラス数の木

分野: 整数問題  レベル: マニアック    

定理:
すべての原始ピタゴラス数は,$\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}$ に対して,3つの行列 $A,B,C$ のどれかをかける操作を何度か繰り返すことで作れる。ただし,
$A=\begin{pmatrix}1&-2&2\\2&-1&2\\2&-2&3\end{pmatrix}$,
$B=\begin{pmatrix}1&2&2\\2&1&2\\2&2&3\end{pmatrix}$,$C=\begin{pmatrix}-1&2&2\\-2&1&2\\-2&2&3\end{pmatrix}$

ピタゴラス数に関する非常におもしろい定理です。この定理の主張と証明を詳しく解説します。

定理の主張について

$a^2+b^2=c^2$ を満たす正の整数の組 $(a,b,c)$ のことをピタゴラス数と言います。その中で,$a,b,c$ の最大公約数が $1$ であるものを原始ピタゴラス数と言います。
→ピタゴラス数の求め方とその証明

例えば,$3^2+4^2=5^2$ なので,$(3,4,5)$ は原始ピタゴラス数ですが,実は,すべての原始ピタゴラス数が $(3,4,5)$ から(3種類の行列をかけることで)作り出せるというのが冒頭の定理です。

例えば,$(5,12,13)$ という原始ピタゴラス数は,
$A\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&-2&2\\2&-1&2\\2&-2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}5\\12\\13\end{pmatrix}$
のように $(3,4,5)$ から作り出せます。

他にも,$(65,72,97)$ という原始ピタゴラス数は,
$BC\begin{pmatrix}3\\4\\5\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}65\\72\\97\end{pmatrix}$
のように $(3,4,5)$ から作り出せます。

原始ピタゴラス数の木

ピタゴラス数の木

$(3,4,5)$ からはじめて,図のような木を書いてみます。赤い矢印が $A$,紫の矢印が $B$,緑の矢印が $C$ に対応します。

冒頭の定理は,上記の木に対して,
主張1.すべての原始ピタゴラス数が現れる
ですが,実は以下の主張も成立します。
主張2.原始ピタゴラス数以外のものは現れない
主張3.同じ原始ピタゴラス数が2度現れることはない

つまり,木をどんどん長くしていけば「余分なもの無しですべての原始ピタゴラス数をちょうど1回ずつ生成できる」というわけです。

※このページでは,原始ピタゴラス数と言ったときに第一成分が奇数で,第二成分が偶数であるもののみ考えます。例えば,$(20,21,29)$ は図に現れませんが,$(21,20,29)$ が現れます。

以下では,主張1~主張3を証明します。

主張2の証明

まずは「原始ピタゴラス数以外のものは現れない」ことを証明します。

証明

原始ピタゴラス数 $\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$ に対して,$A\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$,$B\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$,$C\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$ も原始ピタゴラス数になることを示せばよい。

まず,
$A\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a-2b+2c\\2a-b+2c\\2a-2b+3c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$
とおくと,$p^2+q^2=r^2$ となることが簡単な計算でわかる。
また,$c>a,b$ に注意すると,$p,q,r>0$ であることもわかる。よって,$(p,q,r)$ はピタゴラス数である。

次に,$(p,q,r)$ が原始ピタゴラス数でないと仮定する。つまり,$p,q,r$ がいずれも $d\:(\geq 2)$ の倍数であると仮定する。すると,$A^{-1}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\-2&-1&2\\-2&-2&3\end{pmatrix}$ であり各成分が整数なので,
$\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ の各成分も $d$ の倍数になり,$(a,b,c)$ が原始ピタゴラス数であることに矛盾。よって,$(p,q,r)$ は原始ピタゴラス数である。

$B\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$,$C\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}$ についても同様である。ちなみに,
$B^{-1}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\2&1&-2\\-2&-2&3\end{pmatrix}$,$C^{-1}=\begin{pmatrix}-1&-2&2\\2&1&-2\\-2&-2&3\end{pmatrix}$
となる。

なお,$A,B,C$ をかける操作(およびその逆変換)において「第一成分が奇数で,第二成分が偶数」という性質が保たれることもわかります。

主張1と主張3の証明

数学的帰納法を使って「すべての原始ピタゴラス数が,ちょうど1通りの方法で生成できる」ことを証明します。

証明

まず,$c$ が最小の場合,つまり $c=5$ の場合について確認する。
$c=5$ の場合の原始ピタゴラス数は $(3,4,5)$ のみである。
また,原始ピタゴラス数に $A,B,C$ のいずれかをかけると第三成分は大きくなるので,$(3,4,5)$ が2回以上現れることはない。

次に「$c\leq r-1$ であるすべての原始ピタゴラス数 $(a,b,c)$ が,ちょうど1通りの方法で生成できる」が正しいと仮定して,$c=r$ の場合でも正しいことを証明する。つまり,$(p,q,r)$ という原始ピタゴラス数があれば,それがちょうど1通りの方法で生成できることを証明する。
さて,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$,$B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$,$C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ という3つのベクトルを考えると,各成分が正であるものが1つだけ存在する(→※補足)

それが,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ であるとする(他の場合も同様)。
このとき,$B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$,$C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ はいずれかの成分が $0$ 以下なので,主張2により $(3,4,5)$ から生成することはできない。よって,$(p,q,r)$ の生成方法と,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ の生成方法は1対1に対応する。

また,このとき主張2の証明と同様にして,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ が原始ピタゴラスであることがわかる。さらに,三角不等式より第三成分は $r$ より小さいこともわかる。よって,帰納法の仮定により,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ は,$(3,4,5)$ からちょうど1通りの方法で生成できる。
よって,$(p,q,r)$ も $(3,4,5)$ からちょうど1通りの方法で生成できる。

※補足

最後に,$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$,$B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$,$C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}$ という3つのベクトルを考えると,各成分が正であるものが1つだけ存在することを証明します。

証明

$(p,q,r)$ が原始ピタゴラス数であるとき,ある正の整数 $m,n$ を用いて,
$p=m^2-n^2,q=2mn,r=m^2+n^2$ と表すことができます。
→ピタゴラス数の求め方とその証明

よって,各成分を $m,n$ を用いて表すと,
$A^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&-2\\-2&-1&2\\-2&-2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}m^2-n^2\\2mn\\m^2+n^2\end{pmatrix}\\
=\begin{pmatrix}-m^2+4mn-3n^2\\-2mn+4n^2\\m^2-4mn+5n^2\end{pmatrix}\\
=\begin{pmatrix}(m-n)(3n-m)\\-2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}$

$B^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}(m-n)(3n-m)\\2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}$

$C^{-1}\begin{pmatrix}p\\q\\r\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}(m-n)(m-3n)\\2n(m-2n)\\(m-2n)^2+n^2\end{pmatrix}$

よって,$m<2n$,$2n<m<3n$,$3n<m$ のいずれかが成立することに注意すると,各成分が正であるものが1つだけ存在することがわかる。
($m=2n$ である原始ピタゴラス数は $(3,4,5)$ だけであり,$m=3n$ の場合は原始ピタゴラス数にならない)

余談

各成分が整数で,行列式が $1$ または $-1$ である行列を単模行列(たんもぎょうれつ,ユニモジュラ行列)と言います。$A,B,C$ は単模行列のおもしろい例です!

参考文献:Trees of Primitive Pythagorean Triples(全43ページのPDF)

「もれなく重複なく」出てくるのがおもしろいです。ちなみに「もれなく重複なく」をかっこつけて「MECE(ミーシー)」と言うのはあまり好きではありません。