直交多項式の意味と4つの有名な例

直交多項式の定義

どの2つを取っても互いに直交するような多項式の集合を直交多項式系と呼ぶ。

直交多項式の意味と例をわかりやすく説明します。

直交多項式とは

直交多項式を理解するには,そもそも多項式が直交するという意味を考える必要があります。

多項式が直交するとは

2つの多項式 P(x),Q(x)P(x),Q(x) について,

abP(x)Q(x)w(x)dx=0\displaystyle\int_a^b P(x)Q(x)w(x)dx=0

のとき P(x)P(x)Q(x)Q(x) は直交すると言うことにする。

ただし,非負の重み関数 w(x)w(x) と積分区間 [a,b][a,b] は与えられるものとします。

例えば,a=1,b=1,w(x)=1a=-1,b=1,w(x)=1 のもとで,P(x)=xP(x)=xQ(x)=x2Q(x)=x^2 は直交します。なぜなら,11f(x)g(x)dx=1414=0\displaystyle\int_{-1}^1f(x)g(x)dx=\dfrac{1}{4}-\dfrac{1}{4}=0 となるからです。

多項式の内積

  • 実は「2つの多項式の内積」が考えられます。直交の定義で登場した abP(x)Q(x)w(x)dx\displaystyle\int_a^b P(x)Q(x)w(x)dx という式は,P(x)P(x)Q(x)Q(x) の内積です。
  • 高校数学でもベクトルの内積を扱いましたが,ベクトルの内積と比較するとわかりやすいです。

ベクトルの内積(離散的)iaibi\displaystyle\sum_{i}a_ib_i のように,成分の積の和で定義された。2本のベクトルの内積が 00 であるとき「2本のベクトルは直交する」と言う。

多項式の内積(連続的)abP(x)Q(x)dx\displaystyle\int_a^b P(x)Q(x)dx のように,積の積分で定義された。2つの多項式の内積が 00 であるとき「2つの多項式は直交する」と言う。

直交多項式の例(チェビシェフ多項式)

直交多項式系とは,どの2つを取っても互いに直交するような多項式の集合です。以下では,直交多項式系の例を4つ紹介します。

まず1つめは(第一種の)チェビシェフ多項式 Tn(x)T_n(x) です。チェビシェフ多項式とは,

  • cosnθ\cos n\thetacosθ\cos\theta で表すときに登場する多項式です。
  • 例えば,cos2θ=2cos2θ1\cos 2\theta=2\cos^2\theta-1 なので T2(x)=2x21T_2(x)=2x^2-1 のように定義されます。
  • Tn(x)T_n(x)nn 次多項式になります。Tn(cosθ)=cosnθT_n(\cos\theta)=\cos n\theta です。詳細は チェビシェフ多項式 を参照ください。
定理1

チェビシェフ多項式 Tn(x)(n=0,1,2,)T_n(x)\:(n=0,1,2,\cdots) は直交多項式系である。ただし,重みは w(x)=11x2w(x)=\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}},積分区間は [1,1][-1,1]

※正確には,x=±1x=\pm 1w(x)w(x) が定義できないので,広義積分です。

証明

目標は,異なる m,nm,n に対して

I=11Tm(x)Tn(x)11x2dx=0I=\displaystyle\int_{-1}^1T_m(x)T_n(x)\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx=0

を証明すること。

x=cosθx=\cos\theta と置換すると,

I=π0Tm(cosθ)Tn(cosθ)(sinθ)sinθdθ=0πcosmθcosnθdθI=\displaystyle\int_{\pi}^{0}T_m(\cos \theta)T_n(\cos \theta)\dfrac{(-\sin \theta)}{\sin\theta}d\theta\\ =\displaystyle\int_0^{\pi}\cos m\theta\cos n\theta d\theta

これは,コサインの積和公式を使って計算すると 00 になることが分かる。(三角関数の積の積分と直交性の計算と同じ)

ルジャンドル多項式

次の例は,以下のルジャンドル多項式 Pn(x)P_n(x) です:
Pn(x)=12nn!(ddx)n(x21)nP_n(x)=\dfrac{1}{2^nn!}\left(\dfrac{d}{dx}\right)^n(x^2-1)^n

ただし,ddx\dfrac{d}{dx} は微分演算子です。例えば,n=2n=2 の場合,

P2(x)=142!{(x21)2)}=18(x42x2+1)=12(3x21)P_2(x)=\dfrac{1}{4\cdot 2!}\{(x^2-1)^2)\}''\\ =\dfrac{1}{8}(x^4-2x^2+1)''\\ =\dfrac{1}{2}(3x^2-1)

という2次多項式です。Pn(x)P_n(x)2n2n 次式を nn 回微分しているので nn 次式です。

定理2

ルジャンドル多項式: Pn(x)(n=0,1,2,)P_n(x)\:(n=0,1,2,\cdots) は直交多項式系である。ただし,重みは w(x)=1w(x)=1,積分区間は [1,1][-1,1]

例題

ルジャンドル多項式 P1(x)P_1(x)P2(x)P_2(x) が直交していることを確認せよ。

解答

P1(x)=12(x21)=xP_1(x)=\dfrac{1}{2}(x^2-1)'=x

P2(x)=32x212P_2(x)=\dfrac{3}{2}x^2-\dfrac{1}{2}

より,

11P1(x)P2(x)dx=0\displaystyle\int_{-1}^1P_1(x)P_2(x)dx=0

(積分を計算するまでもなく,奇関数の [1,1][-1,1] での積分なので 00 になる)

電磁気の多重極展開などで登場します。

エルミート多項式

次の直交多項式の例は,エルミート多項式 Hn(x)H_n(x) です:
Hn(x)=(1)nex2(ddx)nex2H_n(x)=(-1)^ne^{x^2}\left(\dfrac{d}{dx}\right)^ne^{-x^2}

定理3

エルミート多項式: Hn(x)(n=0,1,2,)H_n(x)\:(n=0,1,2,\cdots) は直交多項式系である。ただし,重みは w(x)=ex2w(x)=e^{-x^2},積分区間は [,][-\infty,\infty]

積分区間が (,)(-\infty,\infty) である直交多項式系です。量子力学で調和振動子を扱うときなどに登場します。

他にもたくさんの直交多項式系があります!

ラゲール多項式

最後の直交多項式の例は,ラゲール多項式 Ln(x)L_n(x) です:
Ln(x)=ex(ddx)n(xnex)L_n(x)=e^{x}\left(\dfrac{d}{dx}\right)^n(x^ne^{-x})

xnexx^ne^{-x}nn 回微分すると,ex×n次多項式e^{-x}\times n次多項式 になるので,結局 Ln(x)L_n(x)nn 次多項式になります。

定理4

ラゲール多項式: Ln(x)(n=0,1,2,)L_n(x)\:(n=0,1,2,\cdots) は直交多項式系である。ただし,重みは w(x)=exw(x)=e^{-x},積分区間は [0,][0,\infty]

直交多項式と漸化式

この記事で紹介した4つの直交多項式系(チェビシェフ多項式・ルジャンドル多項式・エルミート多項式・ラゲール多項式)に共通する性質を紹介します。

直交多項式系の次数が低いものから順に P0(x),P1(x),,P_0(x),P_1(x),\dots, とすると,

Pn+1(x)=(Anx+Bn)Pn(x)+CnPn1(x)P_{n+1}(x)=(A_nx+B_n)P_{n}(x)+C_nP_{n-1}(x)

という形の三項間漸化式を満たすことが知られています。

  • チェビシェフ多項式の漸化式:
    Tn+1(x)=2xTn(x)Tn1(x)T_{n+1}(x)=2xT_{n}(x)-T_{n-1}(x)
    これは,三角関数の加法定理からすぐに分かります。

  • ルジャンドル多項式の漸化式:
    Pn+1(x)=2n+1n+1xPn(x)nn+1Pn1(x)P_{n+1}(x)=\dfrac{2n+1}{n+1}xP_{n}(x)-\dfrac{n}{n+1}P_{n-1}(x)

  • エルミート多項式の漸化式;
    Hn+1(x)=2xHn(x)2nHn1(x)H_{n+1}(x)=2xH_n(x)-2nH_{n-1}(x)

  • ラゲール多項式の漸化式;
    Ln+1(x)=(2n+1x)Ln(x)n2Ln1(x)L_{n+1}(x)=(2n+1-x)L_n(x)-n^2L_{n-1}(x)

直交多項式系によって An,Bn,CnA_n,B_n,C_n は変わりますが,似たような三項間漸化式が成立するというのは美しいですね。

直交多項式はかっこいい名前が多いです。