ニュートンの恒等式とその証明

nn 個の変数 x1,,xnx_1,\cdots,x_n について

ii 次の基本対称式を ei(x1,,xn)e_i(x_1,\cdots,x_n)

ii 乗和を pi(x1,,xn)=x1i++xnip_i(x_1,\cdots,x_n)=x_1^i+\cdots +x_n^i

とする。このとき,

kek=i=1k(1)i1ekipike_k=\displaystyle\sum_{i=1}^k(-1)^{i-1}e_{k-i}p_i

主張の補足

ニュートンの恒等式は任意の正の整数 nnkk について成立します。両辺ともにnn 変数 kkの同次式です。

基本対称式 eke_k1kn1\leq k\leq n の場合にしか(自然には)定義できませんが,このページでは e0=1e_0=1k>nk > n のとき ek=0e_k=0 とします。

多項式 pkp_k のことをニュートン多項式ということがあります。

具体例

  • n=2,k=1n=2,k=1
    e1=e0p1e_1=e_0p_1
    (x1+x2)=1(x1+x2)(x_1+x_2)=1\cdot (x_1+x_2)

  • n=2,k=2n=2,k=2
    2e2=e1p1e0p22e_2=e_1p_1-e_0p_2
    2x1x2=(x1+x2)2(x12+x22)2x_1x_2=(x_1+x_2)^2-(x_1^2+x_2^2)

  • n=2,k3n=2,k\geq 3
    0=e2pk2e1pk1+e0pk0=e_2p_{k-2}-e_1p_{k-1}+e_0p_k
    0=x1x2(x1k2+x2k2)(x1+x2)(x1k1+x2k1)+(x1k+x2k)0=x_1x_2(x_1^{k-2}+x_2^{k-2})-(x_1+x_2)(x_1^{k-1}+x_2^{k-1})+(x_1^k+x_2^k) これは2変数の対称式と基本対称式の4つの性質でも紹介した重要な式です。

  • n=3,k=2n=3,k=2
    2e2=e1p1e0p22e_2=e_1p_1-e_0p_2
    2(x1x2+x2x3+x3x1)=(x1+x2+x3)2(x12+x22+x32)2(x_1x_2+x_2x_3+x_3x_1)=(x_1+x_2+x_3)^2-(x_1^2+x_2^2+x_3^2)

  • n=3,k=3n=3,k=3
    3e3=e2p1e1p2+e0p33e_3=e_2p_1-e_1p_2+e_0p_3
    3x1x2x3=(x1x2+x2x3+x3x1)(x1+x2+x3)(x1+x2+x3)(x12+x22+x32)+(x13+x23+x33)3x_1x_2x_3=(x_1x_2+x_2x_3+x_3x_1)(x_1+x_2+x_3)\\-(x_1+x_2+x_3)(x_1^2+x_2^2+x_3^2)+(x_1^3+x_2^3+x_3^3)

このように,ニュートンの恒等式は対称式に関する重要な恒等式をたくさん含んでいます。

ニュートンの恒等式の証明

まず,n=kn=k の場合を証明して,その結果を使って nkn\neq k の場合も証明します。

n=k の場合の証明

(xx1)(xxn)=xne1xn1+e2xn2+(1)n1en1x+(1)nen(x-x_1)\cdots (x-x_n)\\ =x^n-e_1x^{n-1}+e_2x^{n-2}-\cdots +(-1)^{n-1}e_{n-1}x+(-1)^ne_n

という恒等式において x=xi(1in)x=x_i\:(1\leq i\leq n) とすると左辺は 00 なので右辺も 00

xine1xin1+e2xin2+(1)n1en1xi+(1)nen=0x_i^n-e_1x_i^{n-1}+e_2x_i^{n-2}-\cdots +(-1)^{n-1}e_{n-1}x_i+(-1)^ne_n=0

これを i=1i=1 から nn までたしあわせると,

pne1pn1+e2pn2+(1)n1en1p1+n(1)nen=0p_n-e_1p_{n-1}+e_2p_{n-2}-\cdots +(-1)^{n-1}e_{n-1}p_1+n(-1)^ne_n=0

整理するとニュートンの恒等式となる。

n < k の場合の証明

kk 変数 kk 次の場合のニュートンの恒等式において xn+1,,xkx_{n+1},\cdots, x_{k}00 とすれば nn 変数 kk 次のニュートンの恒等式になる。例えば n=k=3n=k=3 の場合で x3=0x_3=0 とすれば n=2,k=3n=2,k=3 の式を得る。

n > k の場合の証明

各項の係数が両辺で等しいことを示す。各項は kk 次なので高々 kk 種類の変数しか含まない。よって,残りの nkn-k 種類の変数を 00 としてもその項には影響がない。そして nkn-k 種類の変数を 00 としたものは kk 変数 kk 次のニュートンの恒等式であり,所望の項の係数は両辺で等しい。

なお,この記事は英語版Wikipedia:Newton’s identitiesを参考にしています。

n=kn=k の場合を利用して nkn\neq k の場合を示すという証明方法が非常におもしろいですね。