フランク・モーリーの定理の証明

フランクモーリーの定理

morley

任意の三角形 ABCABC において,3つの角の三等分線どうしが最初にぶつかる点を P,Q,RP, Q, R とおくと,三角形 PQRPQR は正三角形である。

モーレーの定理,Morley’s trisector theorem などとも言います。

主張が単純で非常に美しい定理です! 実用的な定理ではありませんが,この定理の証明からは多くのことを学べます。証明を見る前にぜひトライしてみてください。

証明の道具

フランクモーリーの定理の証明はいくつか知られていますが,まずはどの道具を使うか考えます。

一般に,図形の性質を証明する方法は大きく分けて3つあります:

  • 初等幾何,図形的な性質のみで証明
  • 三角関数を用いてゴリゴリ計算
  • 座標またはベクトルを用いた解析幾何的アプローチ

しかし,一般的に座標やベクトルは「直角以外の角度を扱うのが難しい」ので,フランクモーリーの定理の証明には向いていません。そこで,このページでは三角関数を用いてゴリゴリ計算する方法で証明していきます。

ちなみに,図形的な性質だけでフランクモーリーの定理を証明する方法は三角形と円の幾何学という本に載っています。

証明の方針

QRQR の長さを三角形 ABCABC の情報(角度,長さ)で表したときに,A,B,CA, B, C に関して対称であることを示せれば PQ=QR=RPPQ=QR=RP が言えます。そこで,三角形 ARQARQ に余弦定理を使いたくなります。そのためには,AR,AQAR,AQ を三角形 ABCABC の情報で表す必要があるので,三角形 ARBARB に注目します。

また,辺の情報と角度の情報が混在していると複雑になるので,辺の情報は正弦定理で角度の情報に変換します。(外接円の半径 RRA,B,CA, B, C に関して対称なので扱いやすいです)

ARAR の形を見て三倍角の公式の発展形(因数分解した形)がひらめくとよいです(→三倍角の公式:基礎からおもしろい発展形まで)。ここがこの証明一番の難所です。

フランクモーリーの定理の証明

証明

morley

三角形 ARBARB に正弦定理を用いて ARAR を三角形 ABCABC の情報で表す:

AR=csin(B3)sin(πA3B3)=csin(B3)sin(A+B3)=2RsinCsin(B3)sin(πC3)AR=\dfrac{c\sin(\tfrac{B}{3})}{\sin(\pi-\tfrac{A}{3}-\tfrac{B}{3})}\\ =\dfrac{c\sin(\tfrac{B}{3})}{\sin(\tfrac{A+B}{3})}\\ =2R\sin C\dfrac{\sin(\tfrac{B}{3})}{\sin(\tfrac{\pi-C}{3})}

ただし,最後の変形で三角形 ABCABC に正弦定理を用いた。

ここで,変形三倍角の公式:

sinC=4sinC3sin(πC3)sin(π+C3)\sin C=4\sin\dfrac{C}{3}\sin\left(\dfrac{\pi-C}{3}\right)\sin\left(\dfrac{\pi+C}{3}\right)

を用いると

AR=8RsinB3sinC3sin(π+C3)AR=8R\sin\dfrac{B}{3}\sin\dfrac{C}{3}\sin\left(\dfrac{\pi+C}{3}\right)

同様にして,

AQ=8RsinB3sinC3sin(π+B3)AQ=8R\sin\dfrac{B}{3}\sin\dfrac{C}{3}\sin\left(\dfrac{\pi+B}{3}\right)

出てきた式より,AQsin(π+B3)=ARsin(π+C3)\dfrac{AQ}{\sin\left(\dfrac{\pi+B}{3}\right)}=\dfrac{AR}{\sin\left(\dfrac{\pi+C}{3}\right)} が分かるので,補足1から,

ARQ=π+B3,AQR=π+C3\angle ARQ=\dfrac{\pi+B}{3}, \angle AQR=\dfrac{\pi+C}{3}

が分かる。他の角も同様に求めることができ,

PQR=QRP=RPQ=π3\angle PQR=\angle QRP=\angle RPQ=\dfrac{\pi}{3} が分かる(→補足2)。

補足1: ARQ,AQR\angle ARQ, \angle AQR は,

ARQ+AQR=πA3=2π+B+C3\angle ARQ+\angle AQR=\pi-\dfrac{A}{3}=\dfrac{2\pi+B+C}{3}

および,正弦定理から AQsinARQ=ARsinAQR\dfrac{AQ}{\sin\angle ARQ}=\dfrac{AR}{\sin\angle AQR}

という2つの式を満たす。

これを,ARQ,AQR\angle ARQ, \angle AQR の連立方程式とみなすと,(π+B3,π+C3)\left(\dfrac{\pi+B}{3},\dfrac{\pi+C}{3}\right) が解になっていることが,上記の証明中の議論から分かる。

そして,それ以外の解が(0<ARQ<π0< \angle ARQ < \pi の範囲で)存在しないことも分かる(1つめの式を AQR\angle AQR について解いて,2つめの式に代入して変形していくと確認できる)

補足2:例えば,

QRP=2πARBARQBRP=2π(πA3B3)(π+B3)(π+A3)=π3\angle QRP=2\pi-\angle ARB-\angle ARQ-\angle BRP\\ =2\pi-\left(\pi-\dfrac{A}{3}-\dfrac{B}{3}\right)-\left(\dfrac{\pi+B}{3}\right)-\left(\dfrac{\pi+A}{3}\right)\\ =\dfrac{\pi}{3}

フランクモーリーの定理は,最も美しくて実用性のない初等幾何の定理の1つです。

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