行列の指数関数とその性質

行列の指数関数(eの行列乗)の定義

正方行列 AA に対して,eAe^A を以下の式で定義する。

eA=I+A+A22!+A33!+e^{A}=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\dfrac{A^3}{3!}+\cdots

ただし,IIAA と同じサイズの単位行列です。

aa が実数の場合の指数関数 eae^a はおなじみですが,この記事では行列の指数関数 eAe^A について紹介します。

行列の指数関数について

  • 行列の指数関数の定義は,eA=I+A+A22!+A33!+e^{A}=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\dfrac{A^3}{3!}+\cdotsです。右辺の無限和は任意の正方行列 AA に対して収束することが知られています。そのため,任意の AA に対して eAe^A を考えることができます。

  • 指数関数のマクローリン展開 ex=1+x+x22!+x33!+e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdotsと同じ形です。よって,AA のサイズが 1×11\times 1 のときは通常の指数関数と一致します。

行列の指数関数の例

対角行列 AA に対して,指数関数 eAe^A は簡単に計算できます!

例題1

A=(3004)A=\begin{pmatrix}3&0\\0&4\end{pmatrix} に対して,eAe^A を計算せよ。

解答

Ak=(3k004k)A^k=\begin{pmatrix}3^k&0\\0&4^k\end{pmatrix} であることが帰納法よりわかる。

よって,

eA=I+A+A22!+=(1001)+(3004)+12!(320042)+=(e300e4)\begin{aligned} e^A &= I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\cdots\\ &= \begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}3&0\\0&4\end{pmatrix}+\dfrac{1}{2!}\begin{pmatrix}3^2&0\\0&4^2\end{pmatrix}+\cdots\\ &= \begin{pmatrix}e^3&0\\0&e^4\end{pmatrix} \end{aligned}

このように,対角行列 AA に対して eAe^A は「ee の成分乗」を並べた対角行列になります。

似たような話が上三角行列の対角成分についても成り立ちます(後で使います)。

e^Aの計算方法

対角行列でない AA に対しても eAe^A を計算したいですね。そのために必要な定理です。

相似変換に関する性質

A=PBP1A=PBP^{-1} のとき eA=PeBP1e^A=Pe^{B}P^{-1}

導出

eA=ePBP1=I+(PBP1)+(PBP1)22!+(PBP1)33!+\begin{aligned} e^A &= e^{PBP^{-1}}\\ &= I+(PBP^{-1})+\dfrac{(PBP^{-1})^2}{2!}+\dfrac{(PBP^{-1})^3}{3!} + \cdots \end{aligned}

ここで,(PBP1)k=PBkP1(PBP^{-1})^k=PB^{k}P^{-1} なので上式は, P(I+B+B22!+B33!+)P1=PeBP1 P\left(I+B+\dfrac{B^2}{2!}+\dfrac{B^3}{3!}+\cdots\right)P^{-1}=Pe^{B}P^{-1} となる。

以上をふまえて,eAe^A を計算する方法です。

対角化できる行列Aに対してe^Aを計算する方法

A=PDP1A=PDP^{-1} と対角化できれば,「相似変換に関する性質」より eA=PeDP1e^A=Pe^DP^{-1} なので eAe^A が計算できる(eDe^D はさきほどの例題1のように計算できる)。

例を見てみましょう。

例題2

A=(2314)A=\begin{pmatrix}2&3\\1&4\end{pmatrix} に対して eAe^A を計算せよ。

解答

固有値・固有ベクトルを求めて対角化する。固有方程式は λ26λ+5=0\lambda^2-6\lambda+5=0 より λ=1,5\lambda=1,5D=(1005)D=\begin{pmatrix}1&0\\0&5\end{pmatrix}

それぞれ固有ベクトルを求めて並べると,P=(3111)P = \begin{pmatrix} 3&1 \\ -1&1 \end{pmatrix} となるので, P1AP=14(1113)(2314)(3111)=(1005)\begin{aligned} P^{-1} A P &= \dfrac{1}{4} \begin{pmatrix} 1&-1\\1&3 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 2&3\\1&4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 3&1 \\ -1&1 \end{pmatrix}\\ &=\begin{pmatrix} 1&0\\0&5 \end{pmatrix} \end{aligned} のように対角化できる。以上より eA=PeDP1=P(e00e5)P1=14(3111)(e00e5)(1113)=14(3e+e53e+3e5e+e5e+3e5)\begin{aligned} e^A &= P e^{D} P^{-1}\\ &= P \begin{pmatrix} e&0\\0&e^5 \end{pmatrix} P^{-1}\\ &=\dfrac{1}{4} \begin{pmatrix} 3&1 \\ -1&1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} e&0\\0&e^5 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&-1\\1&3 \end{pmatrix}\\ &= \dfrac{1}{4} \begin{pmatrix} 3e+e^5&-3e+3e^5\\-e+e^5&e+3e^5 \end{pmatrix} \end{aligned}

対角化できない場合も含めて,より詳しい計算方法を行列の指数関数の計算方法で説明しています。

指数法則は成り立たない

実数 a,ba,b に対しては指数法則 ea+b=eaebe^{a+b}=e^ae^b が成立しますが,行列 A,BA,B に対しては eA+B=eAeBe^{A+B}=e^Ae^B は一般には成立しません。

ただし,AABB が交換可能(つまり AB=BAAB=BA)な場合は eA+B=eAeBe^{A+B}=e^Ae^B が成立します。

eAe^A が正則であること

det(eA)=etrA\det (e^A)=e^{\mathrm{tr}\:A}

美しい公式です。そして,この公式から det(eA)>0\det (e^A)> 0 が分かるので eAe^A が正則であることも分かります!

証明

さきほどの相似変換に関する性質を使う。 A=PJP1A=PJP^{-1}JJAAジョルダン標準形)とすると,

eA=PeJP1e^{A}=Pe^{J}P^{-1}

である。両辺の行列式を考えると,det(eA)=det(PeJP1)\det (e^A)=\det (Pe^{J}P^{-1})

となる。積の行列式は行列式の積なので上式の右辺は det(eJ)\det (e^J) と等しい。

ここで,JJ は上三角行列であり対角成分は AA の固有値 λ1,,λn\lambda_1,\cdots,\lambda_n である。よって,eJe^J も上三角行列で対角成分は eλ1,,eλne^{\lambda_1},\cdots,e^{\lambda_n} である。

よって,det(eJ)=eλ1++λn=etrA\det (e^J)=e^{\lambda_1+\cdots +\lambda_n}=e^{\mathrm{tr}\:A}

(ただし,最後に「固有値の和=トレース」という性質を用いた→行列のトレースの性質とその証明

ちなみに,eX+Ye^{X+Y}eXeYe^Xe^Y の間の関係を表す公式にBaker-Campbell-Hausdorffの公式(名前長っ!)というものがあります。