球の慣性モーメントの2通りの求め方

質量が MM,半径が RR の球の(中心を通る軸まわりの)慣性モーメントは I=25MR2I=\dfrac{2}{5}MR^2

大学物理(力学)の基本的な公式です。2通りの方法で導出します。

必要な前提知識

(3次元の連続体に対する)慣性モーメントの定義:

I=Vr2dm=Vρr2dVI=\displaystyle\int_V r^2 dm=\displaystyle\int_V \rho r^2 dV

ただし,dmdm は微小部分の質量,rr は回転軸までの距離,ρ\rho は密度,dVdV は微小部分の体積を表します。積分は体積積分(三重積分)です。

極座標変換のヤコビアンが r2sinθr^2\sin\theta であること(方法1のみ) →三次元極座標についての基本的な知識 →ヤコビ行列,ヤコビアンの定義と極座標の例

質量が MM,半径が aa の円板の(中心を通る軸まわりの)慣性モーメントが I=12Ma2I=\dfrac{1}{2}Ma^2 であること(方法2のみ)

1.対称性を用いる方法

「同じ値のものを足して計算しやすいものをつくる」というテクニックを使います。→対称性を用いた定積分の計算(King Property)

証明

球の中心が原点,回転軸を zz 軸とする座標で考えると,慣性モーメントの定義より

I=x2+y2+z2R2ρ(x2+y2)dxdydzI=\displaystyle\int_{x^2+y^2+z^2\leq R^2} \rho(x^2+y^2)dxdydz

積分の対称性より,

I=x2+y2+z2R2ρ(y2+z2)dxdydzI=\displaystyle\int_{x^2+y^2+z^2\leq R^2} \rho(y^2+z^2)dxdydz

I=x2+y2+z2R2ρ(z2+x2)dxdydzI=\displaystyle\int_{x^2+y^2+z^2\leq R^2} \rho(z^2+x^2)dxdydz

も成立する。これらを加えると,

3I=x2+y2+z2R22ρ(x2+y2+z2)dxdydz3I=\displaystyle\int_{x^2+y^2+z^2\leq R^2} 2\rho(x^2+y^2+z^2)dxdydz

ここで,直交座標から極座標へ変数変換すると,ヤコビアンは r2sinθr^2\sin\theta なので

3I=02πdϕ0πsinθdθ0R2ρr2r2dr=2π22R5ρ53I=\displaystyle\int_{0}^{2\pi}d\phi\int_0^{\pi}\sin\theta d\theta\int_0^{R}2\rho r^2\cdot r^2 dr\\ =2\pi\cdot 2\cdot \dfrac{2R^5\rho}{5}

よって,I=8π15ρR5I=\dfrac{8\pi}{15}\rho R^5

ここで,ρ=M43πR3\rho=\dfrac{M}{\frac{4}{3}\pi R^3} より,

I=25MR2I=\dfrac{2}{5}MR^2

2.円板の慣性モーメントを使う方法

円板の慣性モーメントが 12Ma2\dfrac{1}{2}Ma^2 であることは認めます。

証明

球の中心が原点,回転軸を zz 軸とする座標で考える。 zz 座標が zz から z+dzz+dz の間にある部分は薄い円板とみなせる。

その半径は,a=R2z2a=\sqrt{R^2-z^2},質量は M=ρSdz=ρπ(R2z2)dzM=\rho Sdz=\rho \pi (R^2-z^2)dz

SS は円板の底面積,dzdz は厚み)

よって,この薄い円板部分による慣性モーメントへの寄与は

12Ma2=12ρπ(R2z2)(R2z2)2dz\dfrac{1}{2}Ma^2=\dfrac{1}{2}\rho\pi (R^2-z^2)(\sqrt{R^2-z^2})^2dz

したがって,

I=RR12ρπ(R2z2)2dz=ρπ0R(R42R2z2+z4)dz=ρπ(R52R53+R55)=8π15ρR5I=\displaystyle\int_{-R}^{R}\dfrac{1}{2}\rho\pi (R^2-z^2)^2dz\\ =\rho\pi \displaystyle\int_0^{R}(R^4-2R^2z^2+z^4)dz\\ =\rho\pi \left(R^5-\dfrac{2R^5}{3}+\dfrac{R^5}{5}\right)\\ =\dfrac{8\pi}{15}\rho R^5

これと,ρ=M43πR3\rho=\dfrac{M}{\frac{4}{3}\pi R^3} より,

I=25MR2I=\dfrac{2}{5}MR^2

私は1つめの方法がかなり好きです。