行列のカーネル(核)の性質と求め方

カーネル(核)の定義

行列 AA に対して,Ax=0undefinedAx=\overrightarrow{0} を満たすベクトル xx の集合を AA のカーネル(または核)と言い,KerA\mathrm{Ker}\:A と書くことが多い。

線形代数における重要な概念「カーネル」について解説します。

カーネルとは

この記事では,AAm×nm\times n 行列,xxnn 次元の縦ベクトルとします。また,0undefined\overrightarrow{0} は全ての要素が 00 である mm 次元縦ベクトルです。

行列のカーネル

線形代数におけるカーネルとは,AA をかけると 0undefined\overrightarrow{0} になるベクトルの集合です。図のように理解すると,確かに「核」っぽいです。

カーネルの性質

カーネルは線形空間をなす

つまり,x1,x2KerAx_1,x_2\in \mathrm{Ker}\:A なら,その線形結合 c1x1+c2x2c_1x_1+c_2x_2 もカーネルの要素であるというわけです。これは,Ax1=0,Ax2=0Ax_1=0,Ax_2=0 なら A(c1x1+c2x2)=0A(c_1x_1+c_2x_2)=0 であることから分かります。

rankA+dim(KerA)=n\mathrm{rank}\:A+\dim (\mathrm{Ker}\:A)=n(次元定理)

次元定理の意味,具体例,証明で詳しく解説しています。カーネルの大きさとイメージの大きさ(rank\mathrm{rank})の間に成り立つ関係です。

AA が正方行列のとき)AA が正則     \iff KerA\mathrm{Ker}\:A の要素は 0undefined\overrightarrow{0} のみ

\Longrightarrow は簡単です。 AA が正則なら逆行列 A1A^{-1} が存在するので,Ax=0undefinedAx=\overrightarrow{0} なら(両辺に左から A1A^{-1} をかけて)x=0undefinedx=\overrightarrow{0} となります。

\Longleftarrow は次元定理を認めればすぐです。カーネルの次元が 00 のとき,rankA=n\mathrm{rank}\:A=n であり,AA が正則であることが分かります。

さらに詳しく→行列が正則であることの意味と5つの条件

カーネルの求め方

具体例で説明します。カーネルを求めるには,連立方程式 Ax=0undefinedAx=\overrightarrow{0} を解けばよいです。これは頑張れば高校生にもできますが,ここでは行列の基本変形を用いて説明します。(前提知識:行列の基本変形の意味と応用(rank・行列式の計算)

例題

A=(1112111113333115)A=\begin{pmatrix}1&1&1&2\\1&-1&-1&1\\1&3&3&3\\3&1&1&5\end{pmatrix} のカーネルを計算せよ。また,基底を一組求めよ。

解答

AA を行基本変形していくと,

A(1112022102210221)A\to\begin{pmatrix}1&1&1&2\\0&-2&-2&-1\\0&2&2&1\\0&-2&-2&-1\end{pmatrix}

(1112022100000000)\to\begin{pmatrix}1&1&1&2\\0&-2&-2&-1\\0&0&0&0\\0&0&0&0\end{pmatrix}

となる。つまり,x=(x1x2x3x4)x=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\\x_4\end{pmatrix}AA のカーネルの要素となる必要十分条件は,x1+x2+x3+2x4=0x_1+x_2+x_3+2x_4=0 かつ 2x22x3x4=0-2x_2-2x_3-x_4=0

ここで,x3x_3x4x_4 を一つ決めればこの条件を満たす xx がただ一つ決まる。つまり,カーネルの要素は

x=(32tst2st)x=\begin{pmatrix}-\frac{3}{2}t\\-s-\frac{t}{2}\\s\\t\end{pmatrix}

(ただし s,ts,t は任意の実数)とかける。さらに sstt の部分を分けると,

x=s(0110)+t(321201)x=s\begin{pmatrix}0\\-1\\1\\0\end{pmatrix}+t\begin{pmatrix}-\frac{3}{2}\\-\frac{1}{2}\\0\\1\end{pmatrix}

となる。つまり,AA のカーネルの次元は 22 であり,基底(の一例)は

(0110)\begin{pmatrix}0\\-1\\1\\0\end{pmatrix}(321201)\begin{pmatrix}-\frac{3}{2}\\-\frac{1}{2}\\0\\1\end{pmatrix}

ちなみに WolframlAlpha でカーネルの計算もできます(今回の例だと ker{{1,1,1,2},{1,-1,-1,1},{1,3,3,3},{3,1,1,5}}と入力)。