ジョルダン標準形の意味と求め方

任意の正方行列 AA に対して,ある正則行列 PP が存在して,P1AP=JP^{-1}AP=JJJ はジョルダンブロックを対角に並べた行列)になるようにできる。

ジョルダン標準形とは

ジョルダン標準形

ジョルダンブロック(ジョルダン細胞)とは,対角成分に同じ値 λ\lambda を並べ,一つ上の部分には 11 を並べた行列のことです。対角成分 λ\lambda と行列のサイズ kk を用いて J(λ,k)J(\lambda,k) と書くことにします。

例えば,A=(111303436)A=\begin{pmatrix}1&1&1\\3&0&-3\\-4&3&6\end{pmatrix} について,P=(120031101)P=\begin{pmatrix}1&2&0\\0&3&-1\\1&0&1\end{pmatrix}

とすると P1AP=(210020003)P^{-1}AP=\begin{pmatrix}2&1&0\\0&2&0\\0&0&3\end{pmatrix} となり,J(2,2)J(2,2)J(3,1)J(3,1) を対角ブロックに並べた行列なので,これがジョルダン標準形です。

任意の行列 AA に対してジョルダン標準形は(ブロックの順番の任意性を除いて)一意に決まります。

ジョルダン標準形の意味

行列の対角化の意味と具体的な計算方法でも述べたとおり,P1APP^{-1}AP という形の行列は AA とある意味で仲間(相似)です。その仲間の中で最もシンプルな行列を求めたいというモチベーションがあります。

固有値が全て異なる場合は対角化すればOK(対角化で得られる行列=ジョルダン標準形)ですが,そうでない場合は対角化できるとは限りません。そこでジョルダン標準形が登場します。対角行列とまではいかなくても対角行列に近い行列にまでは持っていけるというわけです。

ジョルダン標準形の求め方(3次以下)

まず,3次以下の行列に対して必ず成功する方法を紹介します(4次以上でも多くの場合成功します)。

以下の2つの性質からジョルダン標準形の候補がある程度絞れます。

性質1: JJ の対角成分には AA の固有値が(重複度込みで)並ぶ

性質2: Ax=λxAx=\lambda x を満たす xx の集合の次元が λ\lambda のジョルダンブロックの個数

例題

A=(111303436)A=\begin{pmatrix}1&1&1\\3&0&-3\\-4&3&6\end{pmatrix} のジョルダン標準形 JJ を求めよ。

解答

まず,det(AλI)=(λ2)2(λ3)\det (A-\lambda I)=-(\lambda-2)^2(\lambda-3) より,AA の固有値は 2,2,32,2,3 である。よって,JJ の対角成分は求まったので,あとは各ジョルダンブロックのサイズを求めればよい。

そこで,重複している固有値 22 について考える。 Ax=2xAx=2x を満たす xx の集合の次元 dimKer(A2I)\dim \mathrm{Ker}(A-2I) を求める。これは次元定理より 3rank(A2I)3-\mathrm{rank} (A-2I) と等しい。これを計算すると 11 となる。つまり,固有値 22 のジョルダンブロックの個数は 11 つ。

以上により J=(210020003)J=\begin{pmatrix}2&1&0\\0&2&0\\0&0&3\end{pmatrix}

なお,JJ が求まれば P1AP=JP^{-1}AP=J を満たす行列 PP を(例えば AP=PJAP=PJ という PP についての線形方程式を解くことで)求めることができる。

ジョルダン標準形の求め方(一般)

4次以上の場合,固有値とジョルダンブロックの個数が決まっても JJ が一意に定まらない場合があります。

そのような部分については,以下の性質3(または性質3から導ける性質3’)を用いてジョルダンブロック J(λ,k)J(\lambda,k) の個数を直接求めます。

性質3:固有値 λ\lambda に対応するサイズ kk 以上のジョルダンブロックの数は,
rank(AλI)k1rank(AλI)k\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k-1}-\:\mathrm{rank}(A-\lambda I)^k

性質3’:固有値 λ\lambda に対応するサイズ kk のジョルダンブロック J(λ,k)J(\lambda,k) の数は,
{rank(AλI)k1rank(AλI)k}{rank(AλI)krank(AλI)k+1}=rank(AλI)k12rank(AλI)k+rank(AλI)k+1\{\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k-1}-\:\mathrm{rank}(A-\lambda I)^k\}\\ -\{\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k}-\:\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k+1}\}\\ =\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k-1}-2\:\mathrm{rank}(A-\lambda I)^k+\mathrm{rank}(A-\lambda I)^{k+1}

ちなみに,性質3で k=1k=1 とすると性質2になります。

Wolfram Alphaに行列を投げたら勝手にジョルダン標準形を計算してくれました,すごい!