ヘルダーの不等式の数学オリンピックへの応用

数学オリンピックから不等式の難問を3問ほど解説します。かなりレベルの高い記事です。

いずれもヘルダーの不等式をうまく使ってエレガントに解くことができますが,答えを見る前に考えて頂くとより力がつくと思います。(ヘルダーの不等式を知らない方は厳しいのでヘルダーの不等式のエレガントな証明と頻出形を先に読んでください!)

数学オリンピックの難問たち

2001年国際数学オリンピック(IMO)アメリカ大会第2問:

aa2+8bc+bb2+8ca+cc2+8ab1 \dfrac{a}{\sqrt{a^2+8bc}}+\dfrac{b}{\sqrt{b^2+8ca}}+\dfrac{c}{\sqrt{c^2+8ab}}\geq 1

を証明せよ。

2004年アメリカ数学オリンピック(USAMO)第5問:

正の実数 a,b,ca,b,c に対して

(a5a2+3)(b5b2+3)(c5c2+3)(a+b+c)3 (a^5-a^2+3)(b^5-b^2+3)(c^5-c^2+3)\geq (a+b+c)^3 を証明せよ。

2006年日本数学オリンピック(JMO)第5問:

任意の正の実数 x1,x2,,z3x_1,x_2,\cdots,z_3 に対して不等式

(x13+x23+x33+1)(y13+y23+y33+1)(z13+z23+z33+1)A(x1+y1+z1)(x2+y2+z2)(x3+y3+z3)\begin{aligned} &(x_1^3+x_2^3+x_3^3+1)(y_1^3+y_2^3+y_3^3+1)(z_1^3+z_2^3+z_3^3+1)\\ &\quad\quad\geq A(x_1+y_1+z_1)(x_2+y_2+z_2)(x_3+y_3+z_3) \end{aligned}

が常に成り立つような実数 AA の最大値を求めよ。また,AA をその値にするとき等号が成立する条件を求めよ。

IMO2001第2問の解説

方針:3次のヘルダーの不等式を以下のように使うことで「分母にルートがある分数の和」を下からおさえることができます! (aX+bY+cZ)2(aX+bY+cZ)(a+b+c)3 \left( \dfrac{a}{\sqrt{X}}+\dfrac{b}{\sqrt{Y}}+\dfrac{c}{\sqrt{Z}} \right)^2(aX+bY+cZ)\geq(a+b+c)^3 これはシュワルツの不等式の応用公式と同じ考え方です。

解答

上記の形のヘルダーの不等式で X=a2+8bc,Y=b2+8ca,Z=c2+8abX=a^2+8bc,Y=b^2+8ca,Z=c^2+8ab を代入すると, (左辺)2(a+b+c)3a3+b3+c3+24abc (\text{左辺})^2 \geq \dfrac{(a+b+c)^3}{a^3+b^3+c^3+24abc}

よって, (a+b+c)3a3+b3+c3+24abc(a+b+c)^3\geq a^3+b^3+c^3+24abc を証明すればよい。

左辺を展開すると [2,1,0][1,1,1][2,1,0]\succeq [1,1,1]Muirheadの不等式そのものになる。(展開したあと,まとめて相加相乗平均の不等式で示すこともできる。)

式の展開については→対称式を素早く正確に展開する3つのコツを参照してください。

USAMO2004第5問の解説

方針:難問です。 「3つの積 \geq 三乗」の形なので3次のヘルダーの不等式が使えそうだと予想できます。

a5a^5a2-a^2 があってそのままではうまく使えそうにないので一工夫します,(この工夫を思いつくのが非常に難しい)

解答

まず,a5+1a3+a2a^5+1\geq a^3+a^2 という不等式が成立することに注意する。

(これは因数分解でも示せるし,Muirheadの不等式を知っていれば a5+b5a3b2+a2b3a^5+b^5\geq a^3b^2+a^2b^3 なので b=1b=1 とすればよい。)

これを利用すると,

(左辺)(a3+2)(b3+2)(c3+2) (\text{左辺}) \geq (a^3+2)(b^3+2)(c^3+2)

これを,(a3+13+13)(13+b3+13)(13+13+c3)(a^3+1^3+1^3)(1^3+b^3+1^3)(1^3+1^3+c^3) とみなせばヘルダーの不等式が使えて右辺より大きいことが分かる。

JMO2006第5問の解説

方針:こちらも難問です。まずは全ての変数が同じ値 aa のときを考えてみると, (3a3+1)327Aa3(3a^3+1)^3\geq 27Aa^3 である。よって,(3a3+1)327a3\dfrac{(3a^3+1)^3}{27a^3} の最小値を考えてみると,(多少計算すれば)これは a3=16a^3=\dfrac{1}{6} のとき 34\dfrac{3}{4} であることが分かる。

これが答えであることは予想できるが,証明するのが難しい。(3次9項のヘルダーの不等式を用いる!)

解答

a3=16a^3=\dfrac{1}{6} とおくと,ヘルダーの不等式より,

(左辺)=(x13+x23+x33+a3+a3+a3+a3+a3+a3)(a3+a3+a3+y13+y23+y33+a3+a3+a3)(a3+a3+a3+a3+a3+a3+z13+z23+z33)a6(x1+x2+x3+y1+y2+y3+z1+z2+z3)3a627(x1+y1+z1)(x2+y2+z2)(x3+y3+z3)\begin{aligned} (\text{左辺}) &=(x_1^3+x_2^3+x_3^3+a^3+a^3+a^3+a^3+a^3+a^3)\\ &\quad\quad(a^3+a^3+a^3+y_1^3+y_2^3+y_3^3+a^3+a^3+a^3)\\ &\quad\quad(a^3+a^3+a^3+a^3+a^3+a^3+z_1^3+z_2^3+z_3^3)\\ &\geq a^6(x_1+x_2+x_3+y_1+y_2+y_3+z_1+z_2+z_3)^3\\ &\geq a^6\cdot 27(x_1+y_1+z_1)(x_2+y_2+z_2)(x_3+y_3+z_3) \end{aligned}

最終行は相加相乗平均の不等式である。

よって, A=27a6=34A=27a^6=\dfrac{3}{4} のとき不等式は成立する。

そして,全ての変数を aa とすれば等号が成立するので AA34\dfrac{3}{4} より大きくとることはできない。

JMO本選の最終問題は超難問であることが多いので注意しましょう。

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