e^xのマクローリン展開,三角関数との関係

指数関数のマクローリン展開

ex=1+x+x22!+x33!+x44!+e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^4}{4!}+\cdots

指数関数 exe^x の高階微分,マクローリン展開(x=0x=0 でのテイラー展開),指数関数と三角関数のおもしろい関係について解説します。

exe^x の高階導関数

マクローリン展開のための準備です。指数関数の高階微分を計算してみましょう。

問題

y=exy=e^xnn 階導関数を求めよ。

解答

exe^x を微分しても exe^x のままである。よって,何回微分しても exe^x のままである。

つまり,nn 階微分は (ex)(n)=ex(e^x)^{(n)}=e^x

ちなみに,より一般に指数関数 y=ax(a>0)y=a^x\:(a > 0)nn 階導関数は,(ax)(n)=ax(loga)n(a^x)^{(n)}=a^x(\log a)^n になります。 →指数関数y=a^xの微分公式の4通りの証明

exe^x のマクローリン展開

exe^x はマクローリン展開の最も簡単で重要な例です!

マクローリン展開の公式

多くの関数 f(x)f(x) について, f(x)=f(0)+f(0)x+f(0)2!x2+f(3)(0)3!x3+f(4)(0)4!x4+f(x)=f(0)+f'(0)x+\dfrac{f''(0)}{2!}x^2+\dfrac{f^{(3)}(0)}{3!}x^3+\dfrac{f^{(4)}(0)}{4!}x^4+\cdots

上記をもとに,指数関数 exe^x をマクローリン展開してみます。

指数関数のマクローリン展開の導出

さきほど計算したように,f(x)=exf(x)=e^xx=0x=0 での導関数の値は常に 11

よって,

ex=1+x+x22!+x33!+x44!+=k=0xkk!e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^4}{4!}+\cdots\\ =\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{x^k}{k!}

この等式は,すべての実数 xx について成立します(収束半径は無限大で,剰余項は 00 に収束します)。

複素数の指数関数

指数関数のマクローリン展開の応用として,複素数 zz に対する指数関数 eze^z について考えてみます。

複素数の指数関数の定義

1.マクローリン展開による定義(解析接続):

1+x+x22!+x33!+1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdotsxx に複素数 zz を代入したものを eze^z とする。

2.実三角関数による定義:

z=a+bi(a,bz=a+bi\:(a,b は実数)に対して ez=ea(cosb+isinb)e^z=e^a(\cos b+i\sin b) とする。

  • 1と2は同値であることが分かります(後述)!

  • 普通は1を複素指数関数の定義とし,そこから2を導出して「指数関数と三角関数に美しい関係がある,素晴らしいね!」と言います。

  • ただし,オイラーの公式と複素指数関数ではマクローリン展開を知らない人でも楽しめるように2が複素指数関数の定義だという強引な説明をしました。

指数関数と三角関数の美しい関係

1と2が同値であることを証明します。まず,zz の実部が 00 のときについて証明します。

証明(zの実部が0の場合)

1の表現からスタートして変形していく

ebi=1+bi+(bi)22!+(bi)33!+(bi)44!+=1b22!+b44!b66!++i(bb33!+b55!b77!+)=cosb+isinbe^{bi}=1+bi+\dfrac{(bi)^2}{2!}+\dfrac{(bi)^3}{3!}+\dfrac{(bi)^4}{4!}+\cdots\\ =1-\dfrac{b^2}{2!}+\dfrac{b^4}{4!}-\dfrac{b^6}{6!}+\cdots\\ +i(b-\dfrac{b^3}{3!}+\dfrac{b^5}{5!}-\dfrac{b^7}{7!}+\cdots)\\ =\cos b+i\sin b

となり2の表現と一致する。

ただし,最後の変形はサインとコサインのマクローリン展開を用いました:

  • sinx=xx33!+x55!x77!+\sin x=x-\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}-\dfrac{x^7}{7!}+\cdots
  • cosx=1x22!+x44!x66!+\cos x=1-\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^4}{4!}-\dfrac{x^6}{6!}+\cdots

詳細は,→sinとcosのn階微分とマクローリン展開

次は,任意の複素数について,1と2が同値であることを証明します。

証明(一般のzについて)

1の定義から計算すると,実数の場合と同じように指数法則が成立することが導出できる(→補足):

ez1+z2=ez1ez2e^{z_1+z_2}=e^{z_1}e^{z_2}

z1=a,z2=biz_1=a,z_2=bi とすると

ea+bi=eaebi=ea(cosb+isinb)e^{a+bi}=e^ae^{bi}=e^a(\cos b+i\sin b)

(最後の等号は実部が 00 の場合の結果を使った)となり2の表現と一致した。

補足:指数関数の定義と二項定理を使って計算していきます。

ez1+z2=k=0(z1+z2)kk!=k=0t=0kkCtz1tz2ktk!=k=0t=0kz1tz2ktt!(kt)!=u=0v=0z1uu!z2vv!e^{z_1+z_2}\\ =\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{(z_1+z_2)^k}{k!}\\ =\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{\sum_{t=0}^k{}_k\mathrm{C}_tz_1^tz_2^{k-t}}{k!}\\ =\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\sum_{t=0}^k\dfrac{z_1^tz_2^{k-t}}{t!(k-t)!}\\ =\displaystyle\sum_{u=0}^{\infty}\sum_{v=0}^{\infty}\dfrac{z_1^u}{u!}\dfrac{z_2^v}{v!}

ここで,シグマを分解できる(※)ので,上式は

(u=0z1uu!)(v=0z2vv!)=ez1ez2\displaystyle\left(\sum_{u=0}^{\infty}\dfrac{z_1^u}{u!}\right)\left(\sum_{v=0}^{\infty}\dfrac{z_2^v}{v!}\right)\\ =e^{z_1}e^{z_2}

※有限和のときはシグマ計算を機械的に行うための3つの公式の(3)で述べたように分解できます。無限和でも,分解後の2つの級数が絶対収束するなら分解できます。

マクローリン展開を通じて三角関数と指数関数がつながっているというのがかなり面白いですね。