混同しがちな恒等式と方程式について具体例を交えつつ解説します。
方程式と恒等式の定義
等式には方程式と恒等式の2種類があります。まずは教科書に書いてある定義を確認してみます。
恒等式:変数がどんな値のときも成立する等式(「証明する」等式)
方程式:変数が特別な値のときに成立する等式(「解く」等式)
この定義だけでは分かりにくいので,以下ではとにかくたくさんの例を通じて違いを理解していきます。
恒等式の例
恒等式は「変数がどんな値のときも」常に成立する等式なので,「公式」と呼ばれる等式はほとんど恒等式です。
- 展開公式:$(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$
- 因数分解公式:$x^3-y^3=(x-y)(x^2+xy+y^2)$
- 三角関数の関係式:$\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$
- 対数関数の公式:$\log xy=\log x+\log y$
- オイラーの公式(発展):$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$
→複素指数関数とオイラーの公式
有名な公式がたくさん並んでいます。このように恒等式は,「公式,解法の道具」とみなすこともできます。
なお,条件式があるもとで必ず成立する等式も「解く方程式」ではなく「証明する方程式」なので恒等式の仲間になります。
例
$a+b+c=1$ のもとで,$a^3+b^3+c^3-3abc=a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca$
方程式の例
方程式はその特定の値でしか成立しない等式なので,多くの場合はその値を求める,すなわち解くことが目的になります。
- 1次方程式:$2x+1=x$
- 解のない1次方程式:$x+1=x$
解がなくても方程式です。 - 5次方程式 $x^5+3x+1=0$
解くことができなくても方程式です。 - 関数方程式(発展):$f(x+y)=f(x)+f(y)$
条件を満たす関数を求める,つまり「解く」問題です。→コーシーの関数方程式の解法と応用
このように方程式は「解く」ことのできる(または解きたい)等式とみなすこともできます。
注:(解釈が分かれますが)「 $1+2+3=6$ 」などの変数が現れない等式は恒等式とも方程式とも言わないと思います。(どちらかというと恒等式っぽいですが)
よくある間違い
方程式は「解く」のがメインテーマです。恒等式は変数がどんな値でも成立する等式なので「恒等式を解く」というのは意味のない概念です。(恒等式は「証明する」のがメインテーマになります。)
「恒等式の証明問題」と「方程式を解く問題」を混同してしまう人が多いのでご注意ください。
不等式に関しても同様なことが言えます。
つまり,「絶対不等式(常に成り立つ不等式)」と「解くべき不等式」を区別して考える必要があります。
絶対不等式の証明問題でその不等式を「解く」というのは意味のないことなのです。