コーシーリーマンの関係式と微分可能性・正則関数

複素関数の微分可能性について,そもそも微分可能の意味とは? からはじめて,微分できない例・コーシーリーマンの関係式などを説明します。

目標は,以下の定理の理解です。

複素関数の微分可能性についての定理

z=x+iyz = x+ iy\:x,yx,y は実数)とする。次の2条件は同値である。

  1. f(z)=u(x,y)+iv(x,y)f(z) = u (x,y) + i v (x,y)複素関数の意味で微分可能(正則関数)

  2. u(x,y),v(x,y)u(x,y),v(x,y) が(2変数実関数の意味で)全微分可能であり,コーシーリーマンの関係式を満たす。

(ただし,u,vu,v は実数)

問題設定

f(z)f(z) は複素数上で定義され,複素数の値を持つ関数です。

f(z)f(z) の実部と虚部をそれぞれ u,vu,v とします。つまり,複素数 z=x+iyz=x+iy を入力したときの出力を f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y) と書きます(x,y,u,vx,y,u,v は実数)。

以下では複素関数の微分可能性について考えます。

微分可能性

1変数実関数の微分可能性

実関数 f(x)f(x)x=x0x=x_0 で微分可能とは,

limxx0f(x)f(x0)xx0\displaystyle\lim_{x\to x_0}\dfrac{f(x)-f(x_0)}{x-x_0} が存在するという意味です。

1次近似の形で表現すると,ある実数 RR が存在して

f(x)=f(x0)+R(xx0)+o(xx0)f(x)=f(x_0)+R(x-x_0)+o(|x-x_0|)

と表せる,という意味です。

※スモールオー oo の意味はオーダー記法(ランダウの記号)の定義と大雑把な意味の記事末で紹介しています。

2変数実関数の全微分可能性

2変数実関数 f(x,y)f(x,y)(x,y)=(x0,y0)(x,y)=(x_0,y_0) で全微分可能とは,ある実数 A,BA,B が存在して

f(x,y)=f(x0,y0)+A(xx0)+B(yy0)+o((xx0)2+(yy0)2)f(x,y)\\ =f(x_0,y_0)+A(x-x_0)+B(y-y_0)\\ \:+o(\sqrt{(x-x_0)^2+(y-y_0)^2})

と表せる,という意味です。

1変数複素関数の微分可能性

同様に,複素関数 f(z)f(z)z=z0z=z_0 で微分可能とは,

limzz0f(z)f(z0)zz0\displaystyle\lim_{z\to z_0}\dfrac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0} が存在するという意味です(zzz0z_0 へどのように近づいても同じ極限値が存在しないといけない)。

1次近似の形で表現すると,ある複素数 ZZ が存在して

f(z)=f(z0)+Z(zz0)+o(zz0)f(z)=f(z_0)+Z(z-z_0)+o(|z-z_0|) となる,という意味です。

微分不可能な例

g(z)=zg(z) = \overline{z} とすると,この関数は複素微分不可能である。実際,h=s+ith=s+it とおくと,

g(z+h)g(z)h=hh=sits+it \dfrac{g(z+h) - g(z)}{h} = \dfrac{\overline{h}}{h}=\dfrac{s-it}{s+it}

となる。h0h\to 0 を考える際に,例えば

  • t=0t=0 と固定して s0s\to 0 とすると上式は 11
  • s=0s=0 と固定して t0t\to 0 とすると上式は 1-1

となり一定でないので微分不可能。

ちなみに,対象とする領域内すべての点で複素微分可能な関数を 正則関数 といいます,複素解析において非常に重要な概念です。

コーシーリーマンの関係式と具体例

冒頭の定理で登場したコーシーリーマンの関係式について説明します。

コーシーリーマンの関係式(方程式)

ux=vy\dfrac{\partial u}{\partial x}=\dfrac{\partial v}{\partial y}uy=vx\dfrac{\partial u}{\partial y}=-\dfrac{\partial v}{\partial x}

例題

f(z)=z2,g(z)=zf(z)=z^2 , g(z) = \overline{z} それぞれについてコーシーリーマンの関係式が成立しているかどうか確認せよ。

解答

f(x+iy)=(x2y2)+2xyif(x+iy)=(x^2-y^2)+2xyi より,u=x2y2,v=2xyu=x^2-y^2,v=2xy である。

偏微分を計算すると,ux=vy=2x\dfrac{\partial u}{\partial x}=\dfrac{\partial v}{\partial y}=2xuy=vx=2y\dfrac{\partial u}{\partial y}=-\dfrac{\partial v}{\partial x}=-2y となっている。ゆえにコーシーリーマンの関係式を満たす。

g(x+iy)=xiyg(x+iy) = x - iy より,u=x,v=yu = x , v = -y である。

偏微分を計算すると ux=11=vy\dfrac{\partial u}{\partial x} = 1 \neq -1 = \dfrac{\partial v}{\partial y} である。よってコーシーリーマンの関係式を満たさない。

上記の例題からも g(z)=zg(z) = \overline{z} は微分可能ではないことがわかります。

冒頭の定理の証明

必要性と十分性を同時に示します。

証明

f(z)f(z)z=z0z=z_0 において複素関数の意味で微分可能

    \iff ある複素数 Z=A+BiZ=A+Bi が存在して f(z)=f(z0)+(A+Bi)(zz0)+o(zz0)f(z)=f(z_0)+(A+Bi)(z-z_0)+o(|z-z_0|)

ここで,z=x+iy,z0=x0+iy0z=x+iy,z_0=x_0+iy_0 として上式を変形すると,

u(x,y)+iv(x,y)=u(x0,y0)+iv(x0,y0)+(A+Bi)(xx0+iyiy0)+o(zz0)u(x,y)+iv(x,y)\\ =u(x_0,y_0)+iv(x_0,y_0)\\ +(A+Bi)(x-x_0+iy-iy_0)+o(|z-z_0|)

となる。

これを実部と虚部にわけると,

u(x,y)=u(x0,y0)+A(xx0)B(yy0)+o(zz0)u(x,y)\\ =u(x_0,y_0)+A(x-x_0)-B(y-y_0)\\ +o(|z-z_0|)

v(x,y)=v(x0,y0)+B(xx0)+A(yy0)+o(zz0)v(x,y)\\ =v(x_0,y_0)+B(x-x_0)+A(y-y_0)\\ +o(|z-z_0|)

よって,

上の条件が成立

    \iff u,vu,v が2変数の実関数の意味で微分可能(u,vu,v が1次近似できる),かつ (x0,y0)(x_0,y_0) においてコーシーリーマンの関係式(uuvv の1次近似式の間の関係式)が成立

である。

ウィルティンガーの微分

複素数 z=x+iyz = x+iy において,x=z+z2,y=zz2ix = \dfrac{z+\overline{z}}{2} , y = \dfrac{z - \overline{z}}{2i} です。この式を踏まえ,複素関数 ff の変数を x,yx,y として考える代わりに z,zz , \overline{z} で考えてみます。

この考えに基づいてウィルティンガーの微分が以下で定義されます: fz=12(fxify)fz=12(fx+ify) \dfrac{\partial f}{\partial z} = \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial f}{\partial x} - i \dfrac{\partial f}{\partial y} \right)\\ \dfrac{\partial f}{\partial \overline{z}} = \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial f}{\partial x} + i \dfrac{\partial f}{\partial y} \right)

導出

z,zz , \overline{z} を変数として考える ff の全微分は df=fzdz+fzdz df = \dfrac{\partial f}{\partial z} dz + \dfrac{\partial f}{\partial \overline{z}} d\overline{z} と表されます。

x,yx,y を変数と考える ff の全微分は df=fxdx+fydy df = \dfrac{\partial f}{\partial x} dx + \dfrac{\partial f}{\partial y} dy でした。

dx=dz+dz2,dy=dzdz2idx = \dfrac{dz + d\overline{z}}{2} , dy = \dfrac{dz-d\overline{z}}{2i} が成立しますから,代入し計算すると df=12(fxify)dz+12(fx+ify)dz df = \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial f}{\partial x} - i\dfrac{\partial f}{\partial y} \right) dz + \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial f}{\partial x} + i\dfrac{\partial f}{\partial y} \right) d\overline{z} が得られます。dz,dzdz,d\overline{z} の係数に注目することで求めるべき式が得られます。

ウィルティンガーの微分とコーシーリーマンの式

コーシーリーマンの関係式が成立する関数 ff について,ウィルティンガーの微分を計算してみましょう。

fz=12(fx+ify)=12(ux+ivx+iuyvy)=12{(uxvy)+i(vx+uy)}\begin{aligned} \dfrac{\partial f}{\partial \overline{z}} &= \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial f}{\partial x} + i \dfrac{\partial f}{\partial y} \right)\\ &= \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{\partial u}{\partial x} + i \dfrac{\partial v}{\partial x} + i \dfrac{\partial u}{\partial y} - \dfrac{\partial v}{\partial y} \right)\\ &= \dfrac{1}{2} \left\{ \left( \dfrac{\partial u}{\partial x} - \dfrac{\partial v}{\partial y} \right) + i \left( \dfrac{\partial v}{\partial x} + \dfrac{\partial u}{\partial y} \right) \right\} \end{aligned} となり,コーシーリーマンの関係式を用いると 00 になることがわかります。

こうしてコーシーリーマンの関係式が成り立つこととウィルティンガーの微分 fz\dfrac{\partial f}{\partial \overline{z}}00 になることは同値であることがわかります。

実際に例題の関数 f,gf,g で確かめてみましょう。ffz\overline{z} を変数として持たないため fz=0\dfrac{\partial f}{\partial \overline{z}} = 0 です。一方で g(z)=zg(z) = \overline{z} であるため gz=10\dfrac{\partial g}{\partial \overline{z}} = 1 \neq 0 です。

複素関数の記事も少しずつ書いていきたいですね。

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