バーゼル問題の初等的な証明

バーゼル問題

平方数の逆数和は π26\dfrac{\pi^2}{6} に収束する。つまり, k=11k2=1+14+19+=π26 \sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{k^2}=1+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{9}+\cdots=\dfrac{\pi^2}{6} となる。

平方数の逆数和はいくつに収束するのか? という問題がバーゼル問題です。高校数学で理解できるバーゼル問題の証明を解説します。

級数が収束すること

一般に,ζ(p)=k=11kp\zeta(p)=\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{k^p} をリーマンのゼータ関数といいます。 p=1p=1 のときは発散します。→調和級数1+1/2+1/3…が発散することの証明

バーゼル問題は,p=2p=2 のときのゼータ関数の値を求める問題です。

まず,この級数が発散せずに収束することは以下のように簡単に証明できます。非常に有名なテクニック:→部分分数分解など差に分解する4つの恒等式を用いて級数を上からおさえます。

証明

1+122+132++1n2<1+112+123++1(n1)n=1+(112)+(1213)++(1n11n)=21n\begin{aligned} &1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots+\dfrac{1}{n^2}\\ &< 1+\dfrac{1}{1\cdot 2}+\dfrac{1}{2\cdot 3}+\cdots +\dfrac{1}{(n-1)n}\\ &=1+\left(1-\dfrac{1}{2}\right)+\left(\dfrac{1}{2}-\dfrac{1}{3}\right)+\cdots +\left(\dfrac{1}{n-1}-\dfrac{1}{n}\right)\\ &=2-\dfrac{1}{n} \end{aligned}

より,バーゼル問題の級数は収束してその値は 22 以下であることが分かる。

バーゼル問題の証明の道具

バーゼル問題の級数の収束先が π26\dfrac{\pi^2}{6} であることを証明しましょう。いろいろな証明方法があります。

大学数学の道具を使う証明としては,

があります。この記事では,高校数学のみで理解できる方法を紹介します。

使う道具は以下の3つです:

  1. 0xπ20\leqq x\leqq \dfrac{\pi}{2} において sinxxtanx\sin x \leqq x \leqq \tan x (有名不等式)

  2. (cosθ+isinθ)n=cosnθ+isinnθ(\cos\theta+i\sin\theta)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta (ド・モアブル)

  3. 解と係数の関係

1についてはsinx/xについて覚えておくべき2つのこと

2についてはド・モアブルの定理の意味と証明

を参照して下さい。

バーゼル問題の証明の前半

まずは部分和 1+122++1n21+\dfrac{1}{2^2}+\cdots+\dfrac{1}{n^2} を上と下から三角関数ではさみます。

証明の前半

k=1,2,,nk=1,\:2,\cdots,n に対して θk=kπ2n+1\theta_k=\dfrac{k\pi}{2n+1} とおく。0θkπ20\leqq \theta_k\leqq \dfrac{\pi}{2} より,

sinθkθktanθk\sin \theta_k \leqq \theta_k\leqq \tan \theta_k を得る。

各辺の逆数をとって二乗すると,

1tan2θk(2n+1)2k2π21sin2θk \dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\leqq \dfrac{(2n+1)^2}{k^2\pi^2}\leqq \dfrac{1}{\sin^2\theta_k}

これを変形して平方数の逆数を作り出す:

π2(2n+1)21tan2θk1k2π2(2n+1)2(1+1tan2θk) \dfrac{\pi^2}{(2n+1)^2}\cdot\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\leqq \dfrac{1}{k^2}\leqq \dfrac{\pi^2}{(2n+1)^2}\left(1+\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\right)

これを k=1k=1 から nn まで足し合わせる:

π2(2+1n)2n2k=1n1tan2θkk=1n1k2π2(2+1n)2(1n+1n2k=1n1tan2θk)()\begin{aligned} &\dfrac{\pi^2}{(2+\frac{1}{n})^2n^2} \sum_{k=1}^n\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\leqq \sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k^2}\\ &\leqq \dfrac{\pi^2}{(2+\frac{1}{n})^2}\left(\dfrac{1}{n}+\dfrac{1}{n^2} \sum_{k=1}^n\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\right) \: \cdots (\ast) \end{aligned}

よって,あとは limn1n2k=1n1tan2θk=23\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n^2}\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}=\dfrac{2}{3} を証明すれば,上記の不等式の極限を取ってはさみうちの原理を使うことにより収束先が π222×23=π26\dfrac{\pi^2}{2^2}\times\dfrac{2}{3}=\dfrac{\pi^2}{6} であることが分かる。

()(\ast) 補足:最右辺第一項は 11nn 個足しあわせているので,1n2k=1n1=nn2=1n\dfrac{1}{n^2}\displaystyle\sum_{k=1}^n1=\dfrac{n}{n^2}=\dfrac{1}{n} となっている。

証明の後半:東工大の入試問題

目標は limnSnn2=23\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{S_n}{n^2}=\dfrac{2}{3} です。ただし,Sn=k=1n1tan2θkS_n=\displaystyle\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}

これは,1990年東工大後期第二問と本質的に同じ問題になります(東工大の入試問題では誘導がついていました)。

ド・モアブルの定理と解と係数の関係を使います!

証明

sin(2n+1)θk=0\sin(2n+1)\theta_k=0 より,

z=(cosθk+isinθk)2n+1z=(\cos\theta_k+i\sin\theta_k)^{2n+1} の虚部は 00 である。

また,sinθk0\sin\theta_k\neq 0 なので,zzsin2n+1θk\sin^{2n+1}\theta_k で割ることにより,

z=(1tanθk+i)2n+1z'=\left(\dfrac{1}{\tan\theta_k}+i\right)^{2n+1} の虚部は 00 である。

この zz' の虚部は 1tan2θk\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}nn 次多項式とみなせる!

そこで,この nn 次多項式を

f(x)=anxn+an1xn1++a0=0f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_0=0 とおくと,k=1,2,,nk=1,2,\cdots,n に対して

f(1tan2θk)=0f\left(\dfrac{1}{\tan^2\theta_k}\right)=0 である。

すなわち nn 次方程式 f(x)=0f(x)=0 の解が nn 個全て構成できたので解と係数の関係より,

Sn=an1anS_n=-\dfrac{a_{n-1}}{a_n}

実際,二項定理を用いて計算すると,

an=2n+1,an1=(2n+1)(2n)(2n1)6a_n=2n+1,\:a_{n-1}=-\dfrac{(2n+1)(2n)(2n-1)}{6} なので

Sn=n(2n1)3S_n=\dfrac{n(2n-1)}{3}

よって,limnSnn2=23\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{S_n}{n^2}=\dfrac{2}{3} が示された。

一般化

ほとんど同じようにして,「逆数の4乗和」「逆数の6乗和」も計算できます!

ζ(4)=n=11n4=π490\zeta(4)=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^4}=\dfrac{\pi^4}{90}

ζ(6)=n=11n6=π6945\zeta(6)=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^6}=\dfrac{\pi^6}{945}

具体的には,さきほどは解と係数の関係を使って「解の和」を考えましたが,「解の2乗和」や「解の3乗和」も考えることで計算できます。

参考:【非公認】東京工業大学模試研究会

思ったより長く険しい証明になってしまいました。

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