算術幾何平均とレムニスケートの長さ

112\sqrt{2} の算術幾何平均 M(1,2)M(1,\sqrt{2}) は,単位円周の長さ l=2πl=2\pi とレムニスケートの長さ LL の比に等しい:

M(1,2)=lLM(1,\sqrt{2})=\dfrac{l}{L}

「算術幾何平均」や「レムニスケートの長さ」については後述します。非常に美しい定理です。

算術幾何平均

算術幾何平均 M(a,b)M(a,b) とは,2つの正の実数 a,ba,b から定まる1つの数です。

具体的には,正の実数 a,ba,b が与えられたとき,a0=a,b0=ba_0=a,b_0=b を初期値として,以下の漸化式で数列 an,bna_n,b_n を定めます:

an+1=an+bn2a_{n+1}=\dfrac{a_n+b_n}{2}

bn+1=anbnb_{n+1}=\sqrt{a_nb_n}

それぞれ相加平均(算術平均)と相乗平均(幾何平均)です。

このとき,2つの数列 ana_nbnb_nnn\to\infty で同じ値に収束します(*)。この値を aabb算術幾何平均と呼びます。この記事では aabb の算術幾何平均を M(a,b)M(a,b) と書くことにします。

(*)の証明の概略

bab\leq a の場合を考える(aba\leq b の場合も同様)。

相加相乗平均の不等式と帰納法を使うと,

bb1b2a2a1ab\leq b_1\leq b_2\leq \cdots \leq a_2\leq a_1\leq a

が分かる。

単調で有界な数列は収束するので,2つの数列は収束する。その収束先を α,β\alpha,\beta とすると,漸化式より α=α+β2\alpha=\dfrac{\alpha+\beta}{2} となり,α=β\alpha=\beta が分かる。

ちなみに,同様に算術調和平均や調和幾何平均も考えることができます(→調和平均について)。

レムニスケートの長さ LL

r2=cos2θr^2=\cos 2\theta という式で表される曲線をレムニスケートと言います(より一般には r2=2a2cos2θr^2=2a^2\cos 2\theta )。

lemniscate

この曲線の長さを LL とすると,

L4=01dx1x4\dfrac{L}{4}=\displaystyle\int_0^1\dfrac{dx}{\sqrt{1-x^4}}

が成立します。

証明

弧長積分の公式の極座標版を使うと,

L4=011+r2(dθdr)2dr\dfrac{L}{4}=\displaystyle\int_0^1\sqrt{1+r^2\left(\frac{d\theta}{dr}\right)^2}dr

となる。 r2=cos2θr^2=\cos 2\theta の両辺を rr で微分すると,

2r=2sin2θdθdr2r=-2\sin 2\theta\dfrac{d\theta}{dr}

なので,

L4=011+r2r2sin22θdr=011+r41r4dr=01dr1r4\dfrac{L}{4}=\displaystyle\int_0^1\sqrt{1+r^2\dfrac{r^2}{\sin^2 2\theta}}dr\\ =\displaystyle\int_0^1\sqrt{1+\dfrac{r^4}{1-r^4}}dr\\ =\displaystyle\int_0^1\dfrac{dr}{\sqrt{1-r^4}}

冒頭の定理の証明(の概略)

証明の概略

実は,

π2÷0π2dθa2sin2θ+b2cos2θ\dfrac{\pi}{2}\div\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{d\theta}{\sqrt{a^2\sin^2\theta+b^2\cos^2\theta}}

が算術幾何平均 M(a,b)M(a,b) と一致することが知られている(→補足)。

a=1,b=2a=1,b=\sqrt{2} のとき定積分は,

0π2dθ1+cos2θ\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{d\theta}{\sqrt{1+\cos^2\theta}}

となるが,cosθ=x\cos\theta=x とおくと,dxdθ=sinθ\dfrac{dx}{d\theta}=-\sin\theta なので上式は,

1011+x2dx1x2=01dx1x4\displaystyle\int_1^{0}\dfrac{1}{\sqrt{1+x^2}}\cdot\dfrac{dx}{-\sqrt{1-x^2}}\\ =\displaystyle\int_0^1\dfrac{dx}{\sqrt{1-x^4}}

となる。

これはさきほど証明したように,L4\dfrac{L}{4} なので,

M(1,2)=π2÷L4=lLM(1,\sqrt{2})=\dfrac{\pi}{2}\div\dfrac{L}{4}\\ =\dfrac{l}{L}

補足:全然自明じゃないです(発見した Gauss すごい)。詳細は例えばArithmetic-Geometric Mean of Gaussの Gauss’ Second Proof を参照してください。

@nagomi_osaka さんのツイートに inspire されて書いた記事です。楽しかったです!