ゼータ関数の定義と基本的な話

リーマンのゼータ関数

s>1s > 1 なる実数に対してゼータ関数 ζ(s)\zeta(s) は以下のように定義される:

ζ(s)=n=11ns=11s+12s+13s+\zeta(s)=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s}=\dfrac{1}{1^s}+\dfrac{1}{2^s}+\dfrac{1}{3^s}+\cdots

(リーマンの)ゼータ関数のごく基本的な話をざっくりと解説します。

ゼータ関数の値の存在

まずは 11 より大きい任意の実数 ss に対して ζ(s)\zeta(s) が存在することを証明しておきます。すなわち,無限級数 n=11ns\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} が収束することを示します。

証明

ゼータ関数の収束

y=1xsy=\dfrac{1}{x^s} のグラフを書いて 1+12s+13s+1+\dfrac{1}{2^s}+\dfrac{1}{3^s}+\cdots を図示してみると,以下の不等式が成立することが分かる:

n=1k1ns<1+1kdxxs\displaystyle\sum_{n=1}^{k}\dfrac{1}{n^s} <1+\int_1^k\dfrac{dx}{x^s}

実際に右辺を計算すると,

1+[x1s1s]1k=1+k1s11s1+\left[\dfrac{x^{1-s}}{1-s}\right]_{1}^k=1+\dfrac{k^{1-s}-1}{1-s}

1s<01-s <0 に注意して kk\to\infty の極限を取ると,

n=11ns<1+1s1\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} <1+\dfrac{1}{s-1}

を得る。よって,ζ(s)\zeta(s) は収束して(注)その値は 1+1s11+\dfrac{1}{s-1} 以下。

注:単調増加で上に有界な数列は収束することを使いました。

複素数に広げる

実数の複素数乗は定義できる(→複素数の対数関数とiのi乗が実数であること)ので冒頭の式は ss が複素数でも意味を持ちます。

実際,実部が 11 より大きい複素数 ss に対して n=11ns\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} は収束することが知られています。

すなわち,冒頭の表式を使うことで実部が 11 より大きい複素数全体についてゼータ関数の値が定義できました。

しかし,残念ながら実部が 11 以下である複素数 ss に対しては n=11ns\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} は発散してしまいます。例えば s=1s=1 のとき:調和級数1+1/2+1/3…が発散することの証明

解析接続

ゼータ関数の定義域をさらに広げるためには解析接続という方法を使います。

解析接続の詳細はここでは説明しませんが,ざっくり言うと複素数平面上のある領域で定義された関数を,いい感じに延長して定義域を広げることです。

解析接続

例えば,実軸上の一部で定義された赤い関数をいい感じに延長すると(赤+青)という関数が得られます。(赤+緑)もいい感じの関数に見えますが,解析接続における「いい感じの関数」とは「正則関数」という非常に強い性質のものであるため,解析接続は一意に定まります。

ゼータ関数の解析接続

ゼータ関数は s1s\neq 1 なる複素数全体に解析接続できることが知られています。つまり,ゼータ関数の定義域は s1s\neq 1 なる複素数全体。s=1s=1 はゼータ関数の極,と言うことができます。

これでゼータ関数を定義できたのですが「n=11ns\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} を解析接続したもの」と言っても実際の値がよく分かりません。そこで,11 と異なる任意の複素数 ss に対して ζ(s)=(s\zeta(s)=(s の簡単な式)のようなものが欲しくなりますが(少なくとも自分の知識では)そのような簡単な式はありません。

解析接続をした具体的な式はベルヌーイ数を用いて表す方法や,ガンマ関数を用いて表す方法などがあるようですが,いずれも複雑だったり場合分けが必要だったりします。

なお,「実部が正である複素数(で 11 ではないもの)全体」までなら単純な式で拡張できます。すなわち,s1s\neq 1 かつ ss の実部が正なら ζ(s)=1121sn=1(1)n1ns\zeta(s)=\dfrac{1}{1-2^{1-s}}\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{n^s} となることが知られています。実際,ss の実部が 11 より大きいとき「さきほどの定義」と「上の式」が一致することが以下のように確認できます: n=1(1)n1ns=n=11ns2k=11(2k)s=n=11ns21sn=11ns=(121s)n=11ns\begin{aligned}\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{n^s} &=\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s}-2\sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{(2k)^s}\\ &=\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s}-2^{1-s}\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s}\\ &=(1-2^{1-s})\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s}\end{aligned}

参考:log2に収束する交代級数の証明の前半部分と同じ変形です。

ゼータ関数のいくつかの値

  • ζ(2)=π26\zeta(2)=\dfrac{\pi^2}{6}
    これは平方数の逆数和の話です。→バーゼル問題の初等的な証明

  • ζ(1)=112\zeta(-1)=-\dfrac{1}{12}
    ζ(s)=n=11ns\zeta(s)=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^s} という式は ss の実部が 11 より大きいときにしか意味を持ちませんが,この式の両辺に強引に s=1s=-1 を代入すると,
    1+2+3+4+=1121+2+3+4+\cdots=-\dfrac{1}{12} という奇妙な式が得られます。この奇妙な式は間違いですが,有名です。

  • ζ(2)=ζ(4)=ζ(6)==0\zeta(-2)=\zeta(-4)=\zeta(-6)=\cdots =0
    ゼータ関数に負の偶数を代入すると 00 になります。これを自明な零点と言います(素人にとっては全然自明じゃないですが……)。これはベルヌーイ数という数列と関係があります。→ ベルヌーイ数とゼータ関数

リーマン予想についてはそのうち別記事で書きたいなあと思っています。

追記:→リーマン予想の意味,素数分布との関係