Weitzenböckの不等式

Weitzenböckの不等式

三角形 ABCABC の三辺の長さを a,b,ca, b, c,面積を SS とおくと以下の不等式が成立する。 a2+b2+c243Sa^2+b^2+c^2\geq 4\sqrt{3}S

難関大の入試や数学オリンピックでは,幾何不等式を証明させる問題がしばしば出題されます。実際,2019年東工大入試や,1961年国際数学オリンピックハンガリー大会では,上記の不等式を証明せよという問題が出題されています。

このページではWeitzenböckの不等式の4通りの証明を紹介します。

  1. ヘロンの公式を用いた素直な方法
  2. ナポレオン三角形を用いた方法(観賞用)
  3. 座標計算による方法
  4. 二辺とその間の角で表す方法

ヘロンの公式を用いた証明

方針

不等式を三角形の各辺の長さ a,b,ca, b, c のみで表してから3変数の不等式を代数的に証明する,というのが幾何不等式証明のもっとも基本的なパターンです。三角形の面積を三辺の長さで表すといえばヘロンの公式が思いつきます。

証明

ヘロンの公式より,

S2=116(a+b+c)(a+bc)(ab+c)(a+b+c) S^2=\dfrac{1}{16} (a+b+c)(a+b-c)(a-b+c)(-a+b+c) なので,証明すべき不等式は以下と同値である。

(a2+b2+c2)248116(a+b+c)(a+bc)(ab+c)(a+b+c) (a^2+b^2+c^2)^2 \geq 48 \cdot \dfrac{1}{16} (a+b+c)(a+b-c)(a-b+c)(-a+b+c)

両辺を展開して整理すると,証明すべき不等式はいかのように同値変形していける。

a4+b4+c4+2(a2b2+b2c2+c2a2)3(a4+b4+c4)+6(a2b2+b2c2+c2a2)a4+b4+c4(a2b2+b2c2+c2a2)012{(a2b2)2+(b2c2)2+(c2a2)2}0\begin{aligned} &a^4+b^4+c^4+2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)\\ &\geq -3(a^4+b^4+c^4)+6(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)\\ &a^4+b^4+c^4-(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)\geq 0\\ &\dfrac{1}{2}\{(a^2-b^2)^2+(b^2-c^2)^2+(c^2-a^2)^2\}\geq 0 \end{aligned}

この最後の不等式は明らかに成立する。

よって,Weitzenböckの不等式が示された。

補足:

ナポレオン三角形を用いた証明

方針

PRPR の長さを求めるとなんとWeitzenböckの不等式が証明できます。余弦定理を用いて PRPR の長さを求めるために AP,ARAP, AR の長さを求めます。

証明

ナポレオン三角形

(三角形 ABCABC の内側の向きに)三角形 ABD,BCE,CAFABD, BCE, CAF が正三角形となるように点 D,E,FD, E, F を取る。また,3つの正三角形の重心を P,Q,RP, Q, R とおく(図の赤い点)。

重心は中線を 2:12:1 に内分するので,AP=32c×23=c3AP=\dfrac{\sqrt{3}}{2}c\times \dfrac{2}{3}=\dfrac{c}{\sqrt{3}}

同様に,AR=b3AR=\dfrac{b}{\sqrt{3}}

また,PAR=A60\angle PAR=|A-60^{\circ}|

よって,三角形 APRAPR (青い三角形)に余弦定理を用いて PRPR が求まる:

PR2=b23+c232bc3cos(A60)=13(b2+c2bccosA3bcsinA)=13{b2+c2b2+c2a2223×12bcsinA}=16(a2+b2+c243S)\begin{aligned} PR^2 &= \dfrac{b^2}{3}+\dfrac{c^2}{3}-\dfrac{2bc}{3}\cos (A-60^{\circ})\\ &=\dfrac{1}{3} (b^2+c^2-bc\cos A-\sqrt{3}bc\sin A)\\ &=\dfrac{1}{3}\left\{b^2+c^2-\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2}-2\sqrt{3}\times \dfrac{1}{2}bc\sin A\right\}\\ &=\dfrac{1}{6} (a^2+b^2+c^2-4\sqrt{3}S) \end{aligned}

PR20PR^2\geq 0 なのでWeitzenböckの不等式が証明された。

補足:

三角形 PQRPQR のことをナポレオン三角形といいます。上の証明より,PRPR の長さが a,b,ca, b, c の対称式となることが分かったので,PQ,QRPQ, QR も同様に表され PQ=QR=RPPQ=QR=RP となります。つまり,ナポレオン三角形は正三角形であることが証明されました。

座標計算による証明

2019年の東工大の入試では,三角形の各頂点の座標を (0,0),(h,s),(h,t)(0,0),(h,s),(h,t) と置いて計算で証明させる問題が出ています。

計算の詳細は省略しますが,

s2+t2+h2st+3hs3ht0 s^2+t^2+h^2-st+\sqrt{3}hs-\sqrt{3}ht\geq 0

の証明に帰着されます。

「多変数の二次関数は,一変数ずつ平方完成する」という流れを知っていれば,上記の証明はただの平方完成でできます: 二変数の二次関数

二辺とその間の角で表す証明

読者の方に教えていただいた方法です!

方針

両辺の差を2辺とその間の角,つまり a,b,Ca,b,C で表してみるとうまくいきます。

証明

余弦定理より,c2=a2+b22abcosCc^2=a^2+b^2-2ab\cos C

三角形の面積公式より S=12absinCS=\dfrac{1}{2}ab\sin C

以上より,目標の不等式の両辺の差は,

a2+b2+c243S=2a2+2b22abcosC23absinC=2(a2+b2abcosCab3sinC)\begin{aligned} &a^2+b^2+c^2-4\sqrt{3}S\\ &=2a^2+2b^2-2ab\cos C-2\sqrt{3}ab\sin C\\ &=2(a^2+b^2-ab\cos C-ab\sqrt{3}\sin C) \end{aligned}

となる。さらに三角関数の合成公式を使うと,上式×12\times\dfrac{1}{2}

a2+b22absin(C+30)=(ab)2+2ab{1sin(C+30)}0\begin{aligned} &a^2+b^2-2ab\sin \left(C+30^{\circ}\right)\\ &=(a-b)^2+2ab\left\{1-\sin\left(C+30^{\circ}\right)\right\} \geq 0 \end{aligned}

となる。等号成立条件は a=ba=b かつ C=60C=60^{\circ},つまり正三角形。

余談

Weitzenböckの不等式の三次元バージョンとして,任意の四面体について, i=16li223S\displaystyle\sum_{i=1}^6 l_i^2\geq 2\sqrt{3}S という不等式が成立します。ただし,lil_i は四面体の各辺の長さで,SS は表面積です。4つの面についてのWeitzenböckの不等式を足し上げることで証明できます。2019年東工大で出題されています。

また,Weitzenböckの不等式の一般形(より強い形の不等式)として,

Hadwigerの不等式やPedoeの不等式が知られています。 →Hadwigerの不等式

ナポレオンの定理とWeitzenböckの不等式が同時に証明できました!

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