2015/06/03

行列のトレースのいろいろな性質とその証明

分野: 線形代数  レベル: 大学数学

$n\times n$ 正方行列 $A$ に対して,対角成分の和 $\displaystyle\sum_{k=1}^na_{kk}$ を $A$ のトレース(跡)と言い,$\mathrm{tr}\:A$ と書く。

行列のトレースについて,覚えておくべき公式を整理しました。

具体例

トレースは正方行列に対して定まる実数です。行列式と並ぶ重要な量です。ただし,行列式と違って定義は非常に単純です!

$A=\begin{pmatrix}2&4\\-1&3\end{pmatrix}$ に対して,そのトレースは $\mathrm{tr}\:A=2+3=5$

基本性質

以下,行列のサイズはよきにはからってください。 $r$ は任意の実数,$A,B$ は行列とします。

1. $\mathrm{tr}\:(rA)=r\:\mathrm{tr}\:A$
2. $\mathrm{tr}\:(A+B)=\mathrm{tr}\:A+\mathrm{tr}\:B$
3. $\mathrm{tr}\:A^{\top}=\mathrm{tr}\:A$

1と2はトレースの線形性を表しています。
1〜3いずれもトレースの定義より明らかです。

行列の内積,可換性

次は,積 $AB$ のトレースについて考えてみます。

4. $\mathrm{tr}\:AB^{\top}=\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^na_{ij}b_{ij}$
5. $\mathrm{tr}\:AB=\mathrm{tr}\:BA$

4の右辺は,行列 $A$ と $B$ の内積であり,しばしばお目にかかります。サイズ2の場合に確認してみます(一般のサイズの証明も同様)。

(4の証明,サイズ2の場合)
$A=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{pmatrix}$,$B^{\top}=\begin{pmatrix}b_{11}&b_{21}\\b_{12}&b_{22}\end{pmatrix}$ に対して
$AB^{\top}=\begin{pmatrix}a_{11}b_{11}+a_{12}b_{12}&a_{11}b_{21}+a_{12}b_{22}\\a_{12}b_{11}+a_{22}b_{12}&a_{21}b_{21}+a_{22}b_{22}\end{pmatrix}$ よりOK。

5はトレースの交換法則。これも重要です!4から証明できます。

5の証明

4より,$\mathrm{tr}\:AB=\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^na_{ij}b_{ji}=\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nb_{ij}a_{ji}=\mathrm{tr}\:BA$

注:3つの積について,
$\mathrm{tr}\:ABC=\mathrm{tr}\:CAB=\mathrm{tr}\:BCA$ は成立しますが,
$\mathrm{tr}\:ABC=\mathrm{tr}\:ACB$ などは成立するとは限りません。

固有値の和

行列のトレースは「固有値の和」という重要な意味を持っています!

6. $A$ の固有値を $\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ とおくと,$\mathrm{tr}\:A=\displaystyle\sum_{i=1}^n\lambda_i$

特性方程式&解と係数の関係を使います。

6の証明

特性方程式 $\det(\lambda I-A)=0$ について考える。
この左辺を展開したときの先頭の二項は,$\lambda^n-(\mathrm{tr}\:A)\lambda^{n-1}$ となる(分かりにくければ3×3の場合くらいでやってみるとよい)。

特性方程式の解が $A$ の固有値なので,解と係数の関係より6が示される。

ジョルダン標準形(対角化みたいなもの)を使って証明することもできます。

(6の証明その2)
$A$ のジョルダン標準形を $J$ とおくと,正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP=J$ となる。
・ $J$ の対角成分には $A$ の固有値が並ぶので,$\mathrm{tr}\:J$ は $A$ の固有値の和。

・5より,$\mathrm{tr}\:P^{-1}AP=\mathrm{tr}\:APP^{-1}=\mathrm{tr}\:A$
以上よりOK。

なんでトレースと言うのかはよく分かりません!
分野: 線形代数  レベル: 大学数学