テント写像とその性質〜東大入試の背景〜

テント写像

aa をパラメータとして,

f(x)=amin(x,1x)f(x)=a\:\mathrm{min}(x,1-x)

と表される関数(写像)をテント写像と言う。

東大後期入試のテーマにもなった a=2a=2 の場合のテント写像について考察します。

テント写像

テント写像のグラフ

今回考える関数は,[0,1][0,1] 上で定義された以下のような関数です。

f(x)={2x(0<x12)2(1x)(12<x1)f(x)=\left\{\begin{array}{ll} 2x&(0<x\leq\frac{1}{2})\\ 2(1-x)&(\frac{1}{2}<x\leq1) \end{array}\right.

グラフは図のようになります。この形がテントっぽいのでテント写像と言います。

合成

次に y=ff(x)y=ff(x) のグラフについて考えてみます。

テント写像の合成

0x120\leq x\leq \dfrac{1}{2} の範囲で f(x)f(x) の値は xx の値に比例して 00 から 11 まで増加します。よって,ff(x)ff(x) の値は 0x140\leq x\leq \dfrac{1}{4} まで増加してそこから減少します。

12x1\dfrac{1}{2}\leq x\leq 1 についても同様に考えることで y=ff(x)y=ff(x) のグラフは図のようになることが分かります。

同様に,y=fff(x)y=fff(x) のグラフはテントが 44 つあるようなグラフになります。

さらに一般に,f(x)f(x)nn 個合成した関数 y=fn(x)y=f^n(x) はテントが 2n12^{n-1} 個あるようなグラフになります。

初期値鋭敏性

さきほど見たように y=fn(x)y=f^n(x) は激しく(nn に関して指数的に)ギザギザしています。

そのため,fn(x)f^n(x) の値は xx を少し変えただけでも大きく変わってしまいます。このような性質を初期値鋭敏性と言います。

初期値鋭敏性はカオス力学系と呼ばれるものの一つの性質(定義)です。「カオス」という数学の分野があるくらい深い話題です。

周期点

関数 y=f(x)y=f(x) を何回か作用させると元に戻ってくる点を周期点と言います。

周期点の集合は, 全ての正の整数 nn に対して,x=fn(x)x=f^n(x) の解(固定点,不動点)を集めたものです。

テント写像の固定点

そこで x=fn(x)x=f^n(x) について考えてみます。これは y=fn(x)y=f^n(x)y=xy=x の交点に対応するので,さきほど書いたグラフより全部で 2n2^n 個あることが分かります。

よって,周期点は無限個あることも分かります。

東大の問題との関連

  • 2002年東大後期第3問はテント写像を題材とした問題でした。
    (5)まであり,(1)から(3)までは y=fn(x)y=f^n(x) のグラフが書ければ解けたも同然の問題。(4),(5)はやや難しいですが,テント写像の話題を知っていればかなり有利です(マニアックなテーマなのでほとんどの受験生が知らなかったと思いますが)。

  • y=f(x)y=f(x) のグラフから合成関数 y=fn(x)y=f^n(x) のグラフをイメージするのは重要な考え方です。2004年東大文系第3問,理系第4問はこの考え方を知っていれば一瞬で解ける問題でした。

JMOの予選を受けた方,お疲れ様でした!

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