2015/07/30

同時対角化可能⇔交換可能の意味と証明

分野: 線形代数  レベル: 大学数学

二つの対称行列 $A,B$ について,
$AB=BA\iff$ $A$ と $B$ は同時対角化可能

線形代数の重要な定理です。この定理の証明および量子力学における意味を解説します。

同時対角化可能とは

  • ある正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP$ が対角行列になるとき,行列 $A$ は対角化可能であると言います。
  • ある正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP$ と $P^{-1}BP$ がともに対角行列になるとき,行列 $A$ と $B$ は同時対角化可能であると言います。

定理のバリエーション

  • 上記の定理で「対称行列」を「エルミート行列」に変えてもOKです(量子力学で使うのはこれ)。
  • 「二つの対称行列 $A,B$ について」を「対角化可能な行列 $A,B$ について」に変えてもOKです。対称行列は常に対角化可能(→対称行列の固有値と固有ベクトルの性質の証明)なので,これは冒頭の定理の一般化になっています。

いずれもほぼ同様に証明できますので,以下では冒頭の定理を証明します。

同時対角化可能なら可換の証明

こちらは簡単です。

$\Leftarrow$ の証明

$A$ と $B$ が同時対角化可能なとき,ある正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP$ と $P^{-1}BP$ がともに対角行列となる。

対角行列どうしは交換可能なので,
$(P^{-1}AP)(P^{-1}BP)=(P^{-1}BP)(P^{-1}AP)$

整理する:
$P^{-1}ABP=P^{-1}BAP$
$AB=BA$

交換可能なら同時対角化可能の証明

$A,B$ のサイズを $n$ とします。

方針:$A$ を対角化する行列 $P$ をもとに,$A$ と $B$ を同時対角化する行列 $PQ$ を構成します。

証明

$A$ の固有値 $\lambda$ に対応する固有ベクトルの一つを $u$ とおくと,
$Au=\lambda u$
$BAu=\lambda Bu$
$A(Bu)=\lambda (Bu)$
つまり $Bu$ も $A$ の固有値 $\lambda$ に対応する固有ベクトルである。

次に,$A$ の固有値 $\lambda_1$ に対応する固有空間の基底を $u_1,\cdots,u_k$ とすると,上の議論により $Bu_i\:(1\leq i\leq k)$ は $u_1,\cdots,u_k$ の線形結合で表せるので,
$B(u_1,\cdots,u_k)=(u_1,\cdots,u_k)C_1$ と書ける($C_1$ は $k\times k$ の行列)。
この議論は他の固有値 $\lambda_2,\cdots,\lambda_N$ についても成立する。

よって,$A$ の線形独立な固有ベクトルを(同じ固有値に対応する固有ベクトルは隣り合うような順番で)並べた行列を $P=(u_1,\cdots,u_n)$ とおくと,
$BP=P\begin{pmatrix}C_1&&\\&\ddots&\\&&C_N\end{pmatrix}$ となる。
つまり $P^{-1}BP$ はブロック対角行列になる。

各 $C_i$ は対称行列であり,対角化可能である:$Q_i^{-1}C_iQ_i=D_i$
よって,$Q=\begin{pmatrix}Q_1&&\\&\ddots&\\&&Q_N\end{pmatrix}$ とおくと,
$Q^{-1}P^{-1}BPQ$ は対角行列になる。つまり $PQ$ は $B$ を対角化する。

一方,$PQ$ は $A$ の固有ベクトルを並べた行列 $P$ を「ブロック対角行列 $Q$ で混ぜたもの(各固有空間内で混ぜるだけ)」であり,$PQ$ の列ベクトルたちも $A$ の線形独立な固有ベクトルである。つまり $PQ$ は $A$ も対角化する。

量子力学における意味

量子力学では物理量はエルミート行列(演算子)に対応します。

また,$A$ と $B$ が同時対角化可能というのは,$A$ に対応する物理量と $B$ に対応する物理量が同時観測可能(一回の測定で両方分かる)であることを表しています。

つまりこの記事で紹介した定理は同時観測可能かどうかを判定するには $AB-BA$ が $0$ かどうかを確認すればよいことを表しています。

量子力学では無限次元の行列が登場します。
分野: 線形代数  レベル: 大学数学