2015/11/19

シェルピンスキー・マズルキーウィチのパラドックス

分野: 集合,命題,論証  レベル: マニアック

平面内の部分集合 $S$ で,以下の条件を満たすようなものが存在する。
条件「 $S$ の分割 $\{S_1,S_2\}$ が存在して,$S_1$ を平行移動すると $S$ と一致し,$S_2$ を回転すると $S$ と一致する」

パラドックスのすごさ

  • 平行移動も回転も合同変換(任意の2点間の距離を変えない)です。つまり集合 $S$ は,自分自身と「合同な」もの2つに分割できるというわけです。分身の術です。結果が直感に反するのでパラドックスと呼ばれていますが「定理」です。
  • シェルピンスキー・マズルキーウィチ(Sierpinski-Mazurkiewicz)のパラドックスという名前がすごい(印象的)です。

集合 $S$ の構成

座標平面において原点 $O$ に対して以下の2つの操作を繰り返して得られる点の集合を $S$ とします。
操作1. $x$ 座標を$+1$
操作2.原点中心に $1$ ラジアン反時計回りに回転
(ただし,1回目の操作で操作2を行っても意味が無いので1回目の操作は操作1とする)

例えば,$A(2,0)$ は「操作1,操作1」で得られるので $S$ の要素です。また,$B(\cos 1,\sin 1)$ は「操作1,操作2」で得られるので $S$ の要素です。 $S$ は無限集合です。

複素数平面で考える

複素数平面で考えると,操作1は $1$ を加えることに対応し,操作2は $e^i$ をかけることに対応するので,$S$ の要素は係数が $0$ 以上の整数である多項式 $P$ を用いて $P(e^i)$ と表せます。

先ほどの例について,$A$ は $2$ という複素数に対応し,$B$ は $e^i$ という複素数に対応しています。他にも例えば $4(e^i)^3+e^i+2$ に対応する点も $S$ の要素です。

逆に「係数が $0$ 以上の整数である多項式 $P$ を用いて $P(e^i)$ と表せる複素数に対応する点」が $S$ の要素であることも分かります。

また, $S$ の1つの要素に2つ以上の多項式が対応することはありません。つまり,操作1と操作2を適当な順番で組み合わせて点 $C$ が実現できたとき,他の順番では点 $C$ は実現できません。

証明

2通りの方法で点 $C$ が実現できたと仮定すると,相異なる整数係数多項式 $P_1,P_2$ が存在して,$P_1(e^i)=P_2(e^i)$
これは $e^i$ が超越数であることに矛盾。

超越数については超越数の意味といくつかの例を参照して下さい。 $e^i$ が超越数であることの証明は簡単ではありません(リンデマンの定理というものを使えばできます)。

$S$ の分割 $\{S_1,S_2\}$ の構成と定理の証明

$S$ の要素のうち「最後の操作が操作1」であるようなものの集合を $S_1$ 「最後の操作が操作2」であるようなものの集合を $S_2$ とします。

パラドックスの証明

  • $\{S_1,S_2\}$ が確かに $S$ の分割になっていること
    $S$ の各要素について,操作の順番は一通り。よって最後の操作によって場合分けすることができ,分割が定まる。
  • $S_1$ を平行移動すると $S$ と一致すること
    $S_1$ の点に操作1の逆($x$ 座標を$-1$)をすると $S$ の点になる。これは $S$ と $S_1$ の間の1対1対応を定める。
  • $S_2$ を回転すると $S$ と一致すること
    $S_2$ の点に操作2の逆(原点中心に $1$ ラジアン時計回りに回転)すると $S$ の点になる。これは $S$ と $S_2$ の間の1対1対応を定める。

複素数平面で考えると,
$S_1$ →最後に$+1$ →対応する多項式 $P$ の定数項が $0$ でないもの
$S_2$ →最後に $\times e^i$ →対応する多項式 $P$ の定数項が $0$ であるもの
となります。

パラドックスの証明(多項式による説明)

  • $\{S_1,S_2\}$ が確かに $S$ の分割になっていること
    $S$ の各要素について,対応する多項式の定数項が $0$ でないなら $S_1$ に属し,$0$ なら $S_2$ に属す。同時に両方に属すことはない。
  • $S_1$ を平行移動すると $S$ と一致すること
    定数項が $0$ でない(係数が $0$ 以上の整数である)多項式全体
    について,各々から $1$ を引くと
    (係数が $0$ 以上の整数である)多項式全体
    になる。
  • $S_2$ を回転すると $S$ と一致すること
    定数項が $0$ である(係数が $0$ 以上の整数である)多項式全体
    について,各々に $e^{-i}$ をかけると
    (係数が $0$ 以上の整数である)多項式全体
    になる。
似たようなパラドックスにバナッハタルスキーのパラドックスというものがありますが,こちらの説明には選択公理が必要です。
分野: 集合,命題,論証  レベル: マニアック