差積の意味と置換の符号が定義できることの証明

差積の定義

nn 個の変数の全てのペアの差の積: Δ(x1,,xn)=1i<jn(xjxi) \Delta (x_1 , \cdots , x_{n})= \prod_{1 \leq i < j \leq n} (x_j -x_i)

を差積(最簡交代式,基本交代式)と言う。

差積について

n=2n=2 のとき,

Δ(x1,x2)=(x2x1) \Delta(x_1,x_2)=(x_2-x_1)

n=3n=3 のとき,

Δ(x1,x2,x3)=(x2x1)(x3x1)(x3x2) \Delta(x_1,x_2,x_3)=(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_3-x_2)

n=4n=4 のとき,

Δ(x1,x2,x3,x4)=(x2x1)(x3x1)(x4x1)(x3x2)(x4x2)(x4x3)\begin{aligned} &\Delta(x_1,x_2,x_3,x_4)\\ &=(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_4-x_1)(x_3-x_2)(x_4-x_2)(x_4-x_3) \end{aligned}

という感じです。

nn 変数の差積は nC2{}_n\mathrm{C}_2 次式です。

なお,(xjxi)(i<j)(x_j-x_i)\:\:\:(i<j) の積ではなく,(xixj)(i<j)(x_i-x_j)\:\:\:(i<j) の積を差積と呼ぶこともあります。

差積は交代式

定理1

差積は交代式である。

交代式とは,どの2つの変数を交換しても式が 1-1 倍されるような多項式のことです。

証明

xax_axbx_ba<ba< b)を交換したときに差積が 1-1 倍されることを確認すればよい。

xax_axbx_b を交換することで,

  • (xbxa)(x_b-x_a) という部分は1-1 倍される。

  • a<c<ba<c< b なる cc に対して,(xcxa)(xbxc)(x_c-x_a)(x_b-x_c) という部分は (1)2(-1)^2 倍される(つまりそのまま)。

  • c<ac< a なる cc に対して,(xaxc)(xbxc)(x_a-x_c)(x_b-x_c) という部分はそのまま。

  • b<cb< c なる cc に対して,(xcxa)(xcxb)(x_c-x_a)(x_c-x_b) という部分はそのまま。

  • 他の部分には xax_axbx_b も登場しないのでそのまま。

つまり,全体で 1-1 倍される。

差積と因数分解

定理2

nn 変数の交代式 f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) は,差積 Δ(x1,,xn)\Delta(x_1,\cdots,x_n) と対称式の積で表せる。

因数定理を使うことで証明できます。

n=2,3n=2,3 の場合について交代式の因数分解と実践的な例題で詳しく解説しています。

偶置換,奇置換の証明

差積の有名な応用例として,置換の符号が定義できることの証明をします。置換については→置換の基礎(互換・偶置換・奇置換・符号の意味)

定理3

nn 次の置換 σ\sigma を互換の積で表すとき,その互換の数の偶奇は表し方によらない。

証明

nn 次の置換 σ\sigmann 変数多項式 f(x1,,xn)f(x_1,\cdots,x_n) に対して,

σf(x1,,xn)=f(xσ(1),,xσ(n)) \sigma f(x_1,\cdots,x_n) = f(x_{\sigma(1)},\cdots,x_{\sigma(n)})

ff の変数を σ\sigma によって並べ替えて得られる nn 変数多項式)と定義する。

置換の性質より (σ1σ2)f=σ1(σ2f)(\sigma_1\sigma_2) f=\sigma_1 (\sigma_2 f) である。

今,σ=σkσk1σ2σ1=τlτl1τ2τ1\sigma=\sigma_k\sigma_{k-1}\cdots \sigma_2\sigma_1=\tau_{l}\tau_{l-1}\cdots \tau_2\tau_1 と(2通りの方法で)互換の積で表せたとする。

このとき,

σΔ(x1,xn)=σkσk1σ2σ1Δ(x1,,xn)=(1)kΔ(x1,,xn)\begin{aligned} &\sigma \Delta(x_1,\cdots x_n)\\ &=\sigma_k\sigma_{k-1}\cdots \sigma_2\sigma_1\Delta(x_1,\cdots,x_n)\\ &=(-1)^k\Delta(x_1,\cdots,x_n) \end{aligned}

である。ただし,Δ\Delta が交代式なので互換の作用によって 1-1 倍されることを用いた。

同様に,

σΔ(x1,xn)=τlτl1τ2τ1Δ(x1,,xn)=(1)lΔ(x1,,xn)\begin{aligned} &\sigma \Delta(x_1,\cdots x_n)\\ &=\tau_l\tau_{l-1}\cdots \tau_2\tau_1\Delta(x_1,\cdots,x_n)\\ &=(-1)^l\Delta(x_1,\cdots,x_n) \end{aligned}

である。以上2式より kkll の偶奇は等しい。

ちなみに,差積はヴァンデルモンドの行列式としても有名です。