素数の逆数和が発散することの証明

素数の逆数和 12+13+15+17+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}+\dfrac{1}{7}+\cdots は発散する。

非常に美しい結果です。一見難しそうですが,初等的に(高校数学の範囲で)示せます。

証明に向けた前提知識

素数の逆数和が発散することの証明には以下を前提知識として使います。

1:limnk=1n1k=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k}=\infty

つまり,調和級数 1+12+13+1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots は発散する。 →調和級数1+1/2+1/3…が発散することの証明

2:x>0x > 0 において log(1+x)<x\log (1+x) <x

微分すれば簡単に証明できます。図形的には y=log(1+x)y=\log (1+x)x=0x=0 における接線が y=xy=x であることから従います。

また,和の記号 \displaystyle\sum のかけ算バージョンとして a1a2ak=i=1kaia_1a_2\cdots a_k=\displaystyle\prod_{i=1}^ka_i と書きます。

なお,以下の証明は Divergence_of_the_sum_of_the_reciprocals_of_the_primes

を参考にしています。

素数の逆数和が発散することの証明

方針

素数の逆数和を,調和級数の対数を取ったもの(これは無限大に発散する)で下からおさえます。最初の式が一番難しいですが,そこを突破すればあとは大学入試レベルです。

証明

まず,nn 以下の素数を小さい順に p1,p2,,ptp_1,\:p_2,\cdots ,p_t とおくと,nn 以下の正の整数の素因数は全て p1p_1 から ptp_t のいずれかなので,

k=1n1k<i=1t(1+1pi+1pi2+1pi3+)\displaystyle\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k} <\prod_{i=1}^t\left(1+\dfrac{1}{p_i}+\dfrac{1}{p_i^2}+\dfrac{1}{p_i^3}+\cdots\right)

(右辺を展開して並べてみると左辺の各項が全て登場し,なお余分な項がある)

次に,右辺を等比級数の和の公式で変形すると,

i=1t111pi=i=1t(1+1pi1)\displaystyle\prod_{i=1}^t\dfrac{1}{1-\frac{1}{p_i}}=\prod_{i=1}^t\left(1+\dfrac{1}{p_i-1}\right)

となる。

ここで,積の形が扱いにくいので上記の不等式の対数を取って和の形にする:

log(k=1n1k)<log(i=1t(1+1pi1))=i=1tlog(1+1pi1)<i=1t1pi1\log \left(\displaystyle\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k}\right) <\displaystyle\log\left(\prod_{i=1}^t(1+\dfrac{1}{p_i-1})\right)\\ =\displaystyle\sum_{i=1}^t\log(1+\dfrac{1}{p_i-1})\\ < \displaystyle\sum_{i=1}^t\dfrac{1}{p_i-1}

ただし,最後の変形では前提知識2を用いた。素数の逆数和っぽい形が出てきた。

ここで,ii 番目の素数は i1i-1 番目の素数より 11 以上大きいので,pi1pi1p_{i}-1 \geq p_{i-1}

よって,さきほどの最後の式

=1+i=2t1pi11+i=2t1pi1=1+i=1t11pi=1+\displaystyle\sum_{i=2}^t\dfrac{1}{p_i-1}\\ \leq 1+\displaystyle\sum_{i=2}^t\dfrac{1}{p_{i-1}}\\ =1+\displaystyle\sum_{i=1}^{t-1}\dfrac{1}{p_{i}}

結局以下の不等式を得た:

log(k=1n1k)<1+i=1t11pi\log \left(\displaystyle\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k}\right) <1+\displaystyle\sum_{i=1}^{t-1}\dfrac{1}{p_{i}}

ここで nn\to\infty とすると前提知識1より左辺は発散する。よって,右辺も発散する。 nn\to\infty のとき tt\to\infty であることに注意すると,素数の逆数和が発散することが示された:

limti=1t1pi=\displaystyle\lim_{t\to\infty}\sum_{i=1}^t\dfrac{1}{p_i}=\infty

注: ttnn に依存するので厳密には t(n)t(n) と書くべきですが煩雑になるのを防ぐため省略しました。

発散のスピードなど

素数の逆数和が発散することは分かりましたが,実はこの級数はかなり発散が遅いです。

そもそも調和級数の発散のスピードは logn\log n くらいと遅いです。その調和級数の対数を取って評価しているので素数の逆数和の発散のスピードはもっと遅そうに見えます。

実際,発散のスピードは loglogn\log \log n くらいであることが知られています。

limn(i=1t1piloglogn)\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(\sum_{i=1}^t\dfrac{1}{p_i}-\log\log n\right) は定数に収束し,Meissel–Mertens定数と言います。

なお,平方数の逆数和は収束するので,(→バーゼル問題の初等的な証明)数学的に厳密ではありませんが「素数の方が平方数より圧倒的にたくさんある」と考えることができます。

素数の世界は奥深いですねえ。

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