2015/11/26

モーメント母関数の意味と具体的な計算例


確率変数 $X$ に対して,モーメント母関数(積率母関数)を $M_X(t)=E[e^{tX}]$ で定義する。

モーメント母関数 $M_X(t)$ は $t$ についての関数です。 $X$ が従う確率分布によってはモーメント母関数は存在しないこともありますが,以下ではモーメント母関数が存在するような場合について考えます。

モーメント母関数と期待値,分散

モーメント母関数 $M_X(t)$ を $n$ 回微分して $t=0$ を代入すると $E[X^n]$ となる。

モーメント母関数の重要な性質です。導出にはマクローリン展開の知識が必要です。

導出

$M_X(t)=E[e^{tX}]\\
=E\left[1+tX+\dfrac{t^2}{2}X^2+\dfrac{t^3}{3!}X^3+\cdots\right]$
ここで,期待値の線形性を使うと上式は
$1+E[X]t+\dfrac{E[X^2]}{2!}t^2+\dfrac{E[X^3]}{3!}t^3+\cdots$

これを $M_X(t)$ のマクローリン展開と比較すると定理の主張を得る。

特に,期待値 $E[X]$ は $M’_X(0)$,分散 $V[X]$ は $E[X^2]-E[X]^2=M”_X(0)-M’_X(0)^2$ です。つまり,モーメント母関数から期待値や分散を計算することができます。

二項分布のモーメント母関数

離散型確率分布の場合の例として,二項分布のモーメント母関数を計算してみます。(パラメタが $n,p$ であるような)二項分布とは,$X=k$ となる確率が${}_n\mathrm{C}_kp^k(1-p)^{n-k}\:(k=0,1,\cdots, n)$ であるような分布です。

二項分布のモーメント母関数は,$(pe^t+1-p)^n$

証明

$M_X(t)=E[e^{tX}]\\
=\displaystyle\sum_{k=0}^ne^{tk}{}_n\mathrm{C}_kp^k(1-p)^{n-k}\\
=\displaystyle\sum_{k=0}^n{}_n\mathrm{C}_k(pe^t)^k(1-p)^{n-k}$
ここで二項定理を用いると上式は,
$(pe^t+1-p)^n$ となる。

なお,$M_X(t)$ を $t$ で微分すると $npe^t(pe^t+1-p)^{n-1}$ となります。 $t=0$ を代入すると二項分布の期待値 $np$ が得られます。(→二項分布の平均と分散の二通りの証明

同様に $M_X(t)$ の二階導関数も計算することで二項分布の分散 $np(1-p)$ も得られます。

指数分布のモーメント母関数

連続型確率分布の場合の例として,指数分布のモーメント母関数を計算してみます。(パラメタが $\mu$ であるような)指数分布とは,確率密度関数が $f(x)=\dfrac{1}{\mu}e^{-\frac{x}{\mu}}\:(x \geq 0)$ であるような分布です。

指数分布のモーメント母関数は,$\dfrac{1}{1-\mu t}$
ただし,定義域は $t < \dfrac{1}{\mu}$

証明

$M_X(t)=E[e^{tX}]\\
=\displaystyle\int_0^{\infty}e^{tx}\cdot\dfrac{1}{\mu}e^{-\frac{x}{\mu}}dx\\
=\dfrac{1}{\mu}\displaystyle\int_0^{\infty}e^{(t-\frac{1}{\mu})x}dx$

この定積分は $t\geq\dfrac{1}{\mu}$ のとき発散し,$t< \dfrac{1}{\mu}$ のとき $\dfrac{1}{\frac{1}{\mu}-t}$ となる。

なお,$M_X(t)$ を $t$ で微分すると $\dfrac{\mu}{(1-\mu t)^2}$ となります。 $t=0$ を代入すると指数分布の期待値 $\mu$ が得られます。→指数分布の意味と具体例

同様に $M_X(t)$ の二階導関数も計算することで指数分布の分散 $\mu^2$ も得られます。

似たような関数として特性関数,キュムラント母関数というものもあります。