加法定理の証明(一般角に対する厳密な方法)

三角関数の加法定理

任意の実数 α,β\alpha,\beta に対して

  1. sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ\sin (\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta

  2. sin(αβ)=sinαcosβcosαsinβ\sin (\alpha-\beta)=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta

  3. cos(α+β)=cosαcosβsinαsinβ\cos (\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta

  4. cos(αβ)=cosαcosβ+sinαsinβ\cos (\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta

  5. tan(α+β)=tanα+tanβ1tanαtanβ\tan (\alpha+\beta)=\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}

  6. tan(αβ)=tanαtanβ1+tanαtanβ\tan (\alpha-\beta)=\dfrac{\tan\alpha-\tan\beta}{1+\tan\alpha\tan\beta}

ただし,5,6は tanα,tanβ,tan(α±β)\tan\alpha,\tan\beta,\tan(\alpha\pm\beta) が定義できる場合における式。

加法定理の証明をなんとなく知っている人は多いですが, 一般角に対してきちんと証明するのは(難しくはないですが)相当めんどうです。そこで,きちんと証明を書いておきます。

東大でも出題された

1999年の東大の第一問(文理共通)で「一般角に対して三角関数の加法定理(1と3のみ)を証明せよ」という問題が出題され話題になりました。

加法定理を証明するには,単位円を用いた三角関数の一般角における定義をきちんと理解している必要があります。→三角関数の3通りの定義とメリットデメリット

加法定理の証明(余弦定理を用いた導出方法)

加法定理の証明のうち,余弦定理を用いる方法を紹介します。

加法定理の証明で一番有名な方法です。

証明の方針

step1. まず余弦定理を使って一般角に対して4(cosマイナス)を証明する

step2. 4を使って残りの5つを証明する

cosマイナスの証明

余弦定理を用います。加法定理の証明の核心部分です。

証明

A(cosα,sinα),B(cosβ,sinβ)A(\cos\alpha,\sin\alpha),B(\cos\beta,\sin\beta) とおくと

AB2=(cosαcosβ)2+(sinαsinβ)2=22cosαcosβ2sinαsinβAB^2=(\cos\alpha-\cos\beta)^2+(\sin\alpha-\sin\beta)^2\\=2-2\cos\alpha\cos\beta-2\sin\alpha\sin\beta

加法定理の証明

一方,OAundefined\overrightarrow{OA}OBundefined\overrightarrow{OB} のなす角を θ\theta とおくと,三角形 OABOAB に余弦定理を用いて AB2=12+12211cosθ=22cosθAB^2=1^2+1^2-2\cdot 1\cdot 1\cos \theta=2-2\cos\theta

ここで, 任意の α,β\alpha,\beta に対して cosθ=cos(αβ)\cos\theta=\cos(\alpha-\beta) が成立する(重要な注)ので上の二式を比較して cos(αβ)=cosαcosβ+sinαsinβ\cos (\alpha-\beta)=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta を得る。

重要な注: 角度 θ\theta00 以上 π\pi 以下です。よって,αβ\alpha-\beta(を 2π2\pi で割った余り)が π\pi 以下ならその値が θ\theta になります。つまり cosθ=cos(αβ)\cos\theta=\cos(\alpha-\beta) です。一方,αβ\alpha-\beta(を 2π2\pi で割った余り)が π\pi より大きい場合,θ\theta の「反対側の角度」に対応するので cosθ=cos{2π(αβ)}\cos\theta=\cos\{2\pi-(\alpha-\beta)\} です。後者の場合も後述の補助公式Bより cosθ=cos(αβ)\cos\theta=\cos(\alpha-\beta) となります。

残り5つの証明

一般角に対してcosマイナスが証明できてしまえば,あとは難しい発想は必要ありません。

補助公式

A. sin(θ)=sinθ\sin (-\theta)=-\sin\theta ,B. cos(θ)=cosθ\cos (-\theta)=\cos\theta

C. sin(θ±π2)=±cosθ\sin (\theta\pm \dfrac{\pi}{2})=\pm\cos\theta ,D. cos(θ±π2)=sinθ\cos (\theta\pm \dfrac{\pi}{2})=\mp\sin\theta

補助公式はとりあえず認めて下さい!(最後に補足します)

3(cosプラス)の証明

これはcosマイナスで ββ\beta\to -\beta とするだけです:

cos(α(β))=cosαcos(β)+sinαsin(β)\cos (\alpha-(-\beta))=\cos\alpha\cos(-\beta)+\sin\alpha\sin(-\beta)

ここで,補助公式A,Bを使うと3を得ることができます。

2(sinマイナス)の証明

cosマイナスで位相をズラします:

例えば,ββ+π2\beta\to \beta+\dfrac{\pi}{2} とします。

cos(α(β+π2))=cosαcos(β+π2)+sinαsin(β+π2)\cos (\alpha-(\beta+\dfrac{\pi}{2}))=\cos\alpha\cos(\beta+\dfrac{\pi}{2})+\sin\alpha\sin(\beta+\dfrac{\pi}{2})

ここで,補助公式C,Dを使うと

sin(αβ)=sinαcosβcosαsinβ\sin (\alpha-\beta)=\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta

となり3を得ることができます。

1(sinプラス)の証明

これはsinマイナスで ββ\beta\to -\beta とするだけです:

sin(α(β))=sinαcos(β)cosαsin(β)\sin (\alpha-(-\beta))=\sin\alpha\cos(-\beta)-\cos\alpha\sin(-\beta)

となり補助公式A,Bを使うと2を得ることができます。

5(tanプラス)の証明

1と3を使えばOKです:

tan(α+β)=sin(α+β)cos(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβcosαcosβsinαsinβ=tanα+tanβ1tanαtanβ\tan(\alpha+\beta)=\dfrac{\sin(\alpha+\beta)}{\cos(\alpha+\beta)}\\ =\dfrac{\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta}{\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta}\\ =\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}

ただし,最後の行は分母分子を cosαcosβ\cos\alpha\cos\beta で割りました。

6(tanマイナス)の証明

2と4を使います。5と全く同様にできます。

補助公式について

険しい道のりはまだ続きます。三角関数の定義から加法定理を 厳密に証明するには補助公式A〜Dも一般角に対して証明しなければいけません(東大の問題はここまで要求しているのか分かりませんが)。

  • AとBについては図を書けばすぐに分かります。つまり,xx 軸に関する折り返しで (x,y)(x,y)(x,y)\to (x,-y) となるので cos(θ)=cosθ,sin(θ)=sinθ\cos(-\theta)=\cos\theta,\sin(-\theta)=-\sin\theta となります。

  • CとDをきちんと証明するのはめんどうです。
    π2\frac{\pi}{2} 回転で (x,y)(y,x)(x,y)\to (-y,x) になること」
    π2-\frac{\pi}{2} 回転で (x,y)(y,x)(x,y)\to (y,-x) になること」
    を言えばOKです。 補助定理の証明 これを厳密に証明するには (x,y)(x,y) がどの象限にあるかで場合分けしてやる必要があります。きちんと書くのは本当にめんどくさい(教科書にも書いていないレベル)ので図と図の説明を添えれば十分でしょう。

図の説明

  • 青い点の一つを π2\frac{\pi}{2} 回転させると別の青い点へ移る
  • 図の四つの直角三角形は相似&斜辺の長さが等しいので合同

よって,(x,y)(x,y) がどこにあっても π2\frac{\pi}{2} 回転で (y,x)(-y,x) になり π2-\frac{\pi}{2} 回転で (y,x)(y,-x) になることが確認できる。

加法定理の公式の証明(余弦定理を用いない導出方法)

次に,余弦定理を用いない証明を紹介します。cosプラスの証明のみ行います。残り5つの証明は上記の方法と同様です。

下図のように,単位円に内接する三角形 OABOAB 及びそれを時計回りに α\alpha だけ回転させた三角形 OABOA'B' を考えます。

余弦定理を用いない証明

OABOABOABOA'B' は合同であるから,

AB=ABAB=A'B' つまり AB2=AB2{AB}^2=A'B'^2

一方,上図のような座標より

AB2=(1cos(α+β))2+sin2(α+β)=2(1cos(α+β))AB^2= {(1-\cos{(\alpha+\beta)})}^2+\sin^2{(\alpha+\beta)} \\ =2(1-\cos{(\alpha+\beta)})

AB2=(cosαcosβ)2+(sinαsinβ)2=2(1(cosαcosβsinαsinβ))A'B'^2={(\cos{\alpha}-\cos{\beta})}^2+{(-\sin{\alpha}}-\sin{\beta})^2\\ =2(1-(\cos{\alpha}\cos{\beta}-\sin{\alpha}\sin{\beta}))

両式を比べて

cos(α+β)=cosαcosβsinαsinβ\cos{(\alpha+\beta)}=\cos{\alpha}\cos{\beta}-\sin{\alpha}\sin{\beta}

となります。

加法定理の証明をきちんと書くのがこんなにも険しいとは!

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