偏微分の意味と計算例・応用

偏微分(へんびぶん)とは,多変数関数を「特定の文字以外定数とみなして」微分したもののことです。

偏微分

偏微分について,高校数学の範囲で理解できるように解説します。一見難しそうな偏微分ですが,考え方は難しくありません。

偏微分の意味

f(x,y)=x2+xyf(x,y)=x^2+xy という,xxyy についての関数を考えてみます。

これを「xx 以外を定数とみなして(つまり yy を定数とみなして)」微分すると,2x+y2x+y となります。

このように,特定の文字以外を定数とみなして微分したものを偏微分(偏導関数)と言います。つまり,この例では xx についての偏微分は 2x+y2x+y です。

図形的には,xx についての偏微分はその点における xx 方向の接線の傾きです。下図は f(x,y)=x2+xyf(x,y)=x^2+xy の三次元プロットですが,その点における xx 方向の接線の傾き(メッシュの横線の傾き)が xx についての偏微分です。 偏微分の図形的意味

「偏微分」というたいそうな名前がついていますが,微分の計算自体は一変数の場合と全く同じようにできます。

偏微分の記号

  • xx についての偏微分は f(x,y)x\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial x}fxf_x などの記号を使って表します。さきほどの例では,fx=2x+yf_x=2x+y でした。

  • また,yy についての偏微分は f(x,y)y\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial y}fyf_y などと書きます。

  • さらに,xx で偏微分してから yy で偏微分したものを f(x,y)yx\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial y\partial x}fxyf_{xy} などと書きます。

偏微分の計算例

偏微分に慣れるために,さきほどの関数をいろいろ偏微分してみましょう。

f(x,y)=x2+xyf(x,y)=x^2+xy について,fx,fy,fxy,fyxf_x,f_y,f_{xy},f_{yx} を求めよ。

解答
  • xx に関する偏微分は(yy を定数とみなして微分すると)
    fx=2x+yf_x=2x+y

  • yy に関する偏微分は(xx を定数とみなして微分すると)
    fy=xf_y=x

  • fxyf_{xy}fx=2x+yf_x=2x+y をさらに yy で偏微分すればよいので,fxy=1f_{xy}=1

  • fyxf_{yx}fy=xf_y=x をさらに xx で偏微分すればよいので,fyx=1f_{yx}=1

この例では fxy=fyxf_{xy}=f_{yx} になりました。実は,これは偶然ではなく,多くの場合偏微分の順番は交換可能です。つまり,xx で偏微分してから yy で偏微分しても,yy で偏微分してから xx で偏微分しても同じになることが多いです。→偏微分の順序交換の十分条件とその証明

偏微分の定義

偏微分の定義をきちんと書いてみます。

一変数関数 f(x)f(x) の微分とは,変数を少し動かしたときの変化の割合の極限として定義されました:

limh0f(x+h)f(x)h\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}

同様に,偏微分とは, 特定の一つの変数のみを少し動かしたときの,多変数関数 ff の変化の割合を表します。例えば二変数関数 f(x,y)f(x,y)xx についての偏微分は

limh0f(x+h,y)f(x,y)h\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h}

となります。

偏微分の定義

2変数関数 f(x,y)f(x,y) に対して,

  • limh0f(x+h,y)f(x,y)h\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h} が存在するとき,その値を f(x,y)f(x,y)(x,y)(x,y) における xx の偏微分と呼び,f(x,y)x\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial x} などと書く。

  • limh0f(x,y+h)f(x,y)h\displaystyle\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x,y+h)-f(x,y)}{h} が存在するとき,その値を f(x,y)f(x,y)(x,y)(x,y) における yy の偏微分と呼び,f(x,y)y\dfrac{\partial f(x,y)}{\partial y} などと書く。

偏微分についての補足

  • 偏微分が難しいのは高階微分が登場する場合や,εδ\varepsilon -\delta 論法を用いて厳密に議論する場合です。単純な1階の偏微分の範囲では敬遠する必要はありません。→イプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法

  • ちなみに,多変数関数にはもう一つ「全微分」という概念があります。これは,全ての変数を少し動かしたときの関数 ff の変化の割合のようなもので,偏微分よりもやや難しいです。

  • 高校数学では偏微分も全微分も登場しませんが,偏微分は知っているとよいことがあります。(後述の応用参照)

偏微分の高校数学への応用

偏微分の応用を5つ紹介します。いずれも高校数学の範囲で理解できます。

偏微分の記号がたくさん並ぶとすごく難しい数式に見えますね。

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