幾何不等式の解法パターンまとめ

代数分野において不等式の証明は恒等式の証明より難しいのと同様に,幾何不等式の問題は長さが等しいことを示す問題よりも難しくなりがちです。

幾何不等式の問題には定番の解法のパターンがいくつかあるのでまとめておきます。

1:三角不等式を用いる

三点 ABCABC において,

AB+BCACAB+BC\geqq AC

等号成立条件は,三点 A,B,CA,B,C が同一直線上にあること。

非常に多くの幾何不等式が最終的に三角不等式に帰着されます。

2:トレミーの不等式を用いる

四点 ABCDABCD において,

AB×CD+AD×BCAC×BDAB\times CD+AD\times BC\geqq AC\times BD

等号成立条件は,4点がこの順番に同一直線上または,同一円周上にあること。

→トレミーの不等式の証明と例題

3:線分の長さを用いる

次に多いパターンは,XYX\geqq Y という幾何不等式を示すために,

ある線分の長さ=XY=X-Y という等式を示す

というのがあります。一般的にこの方法による証明は発想力や運が必要になりかなり難しいです。

例えば有名な R2rR\geqq 2r という不等式は,外心と内心の距離の二乗が R(R2r)R(R-2r) となることから導かれます。 →オイラーの定理(初等幾何)

また,重心と外心の距離からライプニッツの不等式が導かれます。 →ライプニッツの不等式の3通りの証明

4:イェンゼンの不等式を用いる

三角関数の和はイェンゼンの不等式(凸関数の不等式)を用いて上からあるいは下から抑えることができます。

→外接円の半径と内接円の半径の関係の最後の部分でこの手法を用いてオイラーの不等式を証明しています。

5:辺の長さの情報に変換して代数的に証明する

正弦定理,余弦定理,加法定理,ヘロンの公式などを駆使して示すべき不等式を三角形 ABCABC の三辺の長さだけで表すことができたらほぼ勝ちです。比較的単純な幾何不等式はこのパターンで機械的に証明できます。

Weitzenbockの不等式の1番目の証明方法はこのパターンです。

なお,三辺の長さに変換したあとの代数的な証明にはRavi変換が便利です。 →不等式証明のコツ3:Ravi変換

このテクニックを用いる練習問題の例はこちら。数学オリンピックの練習問題(幾何不等式)

6:その他有名な幾何不等式

エルデスモーデルの定理

三角形 ABCABC において,その内部の任意の点 OO から三辺へ引いた垂線の足を P,Q,RP, Q, R とおくとき,

OA+OB+OC2(OP+OQ+OR)OA+OB+OC\geqq 2(OP+OQ+OR)

美しいので紹介します。証明は意外と難しいです。 →エルデス・モーデルの定理の証明

図形と不等式証明問題の融合,どっちも楽しめます