2015/01/04

フォイエルバッハの定理と計算による証明


フォイエルバッハの定理(Feuerbach):三角形 $ABC$ において
内接円と九点円は内接する。
傍接円と九点円は外接する。


フォイエルバッハの定理のベクトルを用いた証明を解説します。初等幾何好きの一つの到達点というイメージがあります。

フォイエルバッハの定理について

  • フォイエルバッハの定理は証明がかなり難しい初等幾何の定理として有名です。内心バージョンと傍心バージョンの証明はほぼ同じです。
  • 五心間の距離とスチュワートの定理を使ってひたすら計算することでも証明できます。反転幾何を用いることで図形的にも証明できます。いずれも三角形と円の幾何学という本に載っているので興味がある方はぜひ。
  • この記事ではベクトルを用いてフォイエルバッハの定理(内心バージョン)をほぼ機械的な計算で証明します。計算がかなり大変ですので気合い入れて読んで下さい,最後まで理解できたらきっと感動です!

証明の準備,前提知識

図形の性質を計算で証明するためにはいくつか前提知識が必要になりますが,計算の道筋は一本道です。たくさんの重要な知識を使うので数学オリンピックの非常によい練習問題です。

前提知識

・まず,九点円とは何か,その基本的な性質を知っておく必要があります。九点円の定理の証明と諸性質
1:九点円の半径は外接円の半径の半分($=\dfrac{R}{2}$)である。
2:九点円の中心 $N$ は外心 $O$ と $H$ の中点である。


・内接円の半径と面積の関係 $S=\dfrac{r}{2}(a+b+c)$ と,外接円の半径と面積の関係 $S=\dfrac{abc}{4R}$(→外接円の半径と三角形の面積の関係)より
3:$Rr=\dfrac{abc}{2(a+b+c)}$


・ $A,\:B,\:C$ の位置ベクトルを $\overrightarrow{a},\:\overrightarrow{b},\:\overrightarrow{c}$ とおくと,内心の位置ベクトルは,
4:$\overrightarrow{i}=\dfrac{a\overrightarrow{a}+b\overrightarrow{b}+c\overrightarrow{c}}{a+b+c}$
→三角形の五心の覚えておくべき性質を整理
注:$a$ は辺 $BC$ の長さで $\overrightarrow{a}$ とは別物です。


・オイラー線の定理と重心のベクトルを表す公式より,
5:$\overrightarrow{OH}=\overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OB}+\overrightarrow{OC}$
→オイラー線の3通りの証明


・式が長くなるので $a^2b+ab^2+b^2c+bc^2+c^2a+ca^2=\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b$ と書きます。

証明の概略

目標は内接円と九点円が内接することの証明です。前提知識1を用いてベクトルの言葉で書くと,目標の式は
$|\overrightarrow{NI}|^2=(\dfrac{R}{2}-r)^2$ となります。外心をベクトルの始点に選びます。

証明

目標は $|\overrightarrow{OI}-\overrightarrow{ON}|^2=(\dfrac{R}{2}-r)^2$
前提知識2,5より $\overrightarrow{ON}=\dfrac{\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}+\overrightarrow{c}}{2}$
これと前提知識4より
$\overrightarrow{OI}-\overrightarrow{ON}=(\dfrac{a}{a+b+c}-\dfrac{1}{2})\overrightarrow{a}+(\dfrac{b}{a+b+c}-\dfrac{1}{2})\overrightarrow{b}\\+(\dfrac{c}{a+b+c}-\dfrac{1}{2})\overrightarrow{c}$
この二乗を計算すればよい。ただし,$|\overrightarrow{a}|^2=R^2,\:\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}=R^2\cos 2C$ などに注意する(後者は外接円に関する円周角と中心角の関係から)。
途中で前提知識3を用いて気合いで計算(後述)すると $\dfrac{R^2}{4}-Rr+r^2$ となる。

計算の詳細

気合いで計算する部分です。最初は長くてキモい式が段々綺麗になっていくのが感動的です。

(完結編)
先ほどの議論より,$|\overrightarrow{OI}-\overrightarrow{ON}|^2\\=
(\dfrac{a^2+b^2+c^2}{(a+b+c)^2}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{4}-\dfrac{a+b+c}{a+b+c})R^2\\
+(\dfrac{2ab}{(a+b+c)^2}-\dfrac{a+b}{a+b+c}+\dfrac{1}{2})R^2\cos 2C\\
+(\dfrac{2bc}{(a+b+c)^2}-\dfrac{b+c}{a+b+c}+\dfrac{1}{2})R^2\cos 2A\\
+(\dfrac{2ca}{(a+b+c)^2}-\dfrac{c+a}{a+b+c}+\dfrac{1}{2})R^2\cos 2B$
これに$(a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2ab+2bc+2ca$ および半角の公式 $\cos 2C=1-2\sin^2 C$ などを用いる:
$(\dfrac{(a+b+c)^2}{(a+b+c)^2}+\dfrac{3}{4}-1-\dfrac{2a+2b+2c}{a+b+c}+\dfrac{3}{2})R^2\\
-(\dfrac{4ab}{(a+b+c)^2}-\dfrac{2a+2b}{a+b+c}+1)R^2\sin^2 C\\
-(\dfrac{4bc}{(a+b+c)^2}-\dfrac{2b+2c}{a+b+c}+1)R^2\sin^2 A\\
-(\dfrac{4ca}{(a+b+c)^2}-\dfrac{2c+2a}{a+b+c}+1)R^2\sin^2 B$
一行目は簡単になり,他の行は正弦定理 $R^2\sin^2 C=\dfrac{c^2}{4}$ などを用いて変形する:
$\dfrac{R^2}{4}\\
-(\dfrac{abc^2}{(a+b+c)^2}-\dfrac{ac^2+bc^2}{2(a+b+c)}+\dfrac{c^2}{4})\\
-(\dfrac{a^2bc}{(a+b+c)^2}-\dfrac{ba^2+ca^2}{2(a+b+c)}+\dfrac{a^2}{4})\\
-(\dfrac{ab^2c}{(a+b+c)^2}-\dfrac{cb^2+ab^2}{2(a+b+c)}+\dfrac{b^2}{4})\\
=\dfrac{R^2}{4}-\dfrac{abc}{a+b+c}+\dfrac{\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b}{2(a+b+c)}-\dfrac{a^2+b^2+c^2}{4}$
ここで前提知識2より第二項は$-2Rr$ であり,後ろ二項を通分する:
$\dfrac{R^2}{4}-2Rr+\dfrac{\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-(a^3+b^3+c^3)}{4(a+b+c)}$
目標の式と比較して強引に $Rr$ を作り出す:
$\dfrac{R^2}{4}-2Rr+\dfrac{2abc}{4(a+b+c)}+\dfrac{\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-(a^3+b^3+c^3)-2abc}{4(a+b+c)}\\
=\dfrac{R^2}{4}-Rr+\dfrac{\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-(a^3+b^3+c^3)-2abc}{4(a+b+c)}$
あとは,一番後ろの項が $r^2$ と等しいことを言えばよい。これにはヘロンの公式を用いる:
$r^2=\dfrac{4S^2}{(a+b+c)^2}\\
=\dfrac{4\cdot\frac{1}{16}(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}{(a+b+c)^2}\\
=\dfrac{(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)}{4(a+b+c)}\\
=\dfrac{\displaystyle\sum_{\mathrm{sym}}a^2b-(a^3+b^3+c^3)-2abc}{4(a+b+c)}$
となり目標の式を得た!

「計算で図形問題を解くのが大好き!」という奇特な方には感動していただけたかと思います。