チェザロ平均の性質と関連する東大の問題

チェザロ平均についての定理

数列 ana_n に対して,cn=a1+a2++annc_n=\dfrac{a_1+a_2+\cdots +a_n}{n}チェザロ平均という。そして,

limnan=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha なら limncn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=\alpha

この定理に関連する東大入試の問題,およびこの定理の証明を解説します。

定理について

数列がだんだん α\alpha に近づいていけば,そのチェザロ平均も α\alpha に近づいていくという定理です。

直感的には納得しやすい定理ですが,厳密な証明も記事末に載せておきます(極限に関する定理なので厳密な証明には εδ\varepsilon-\delta 論法を使います。高校数学範囲外です)。

なお,定理の逆は成立しません。例えば 1,1,1,1,1,-1,1,-1,\cdots という数列を ana_n とすると,そのチェザロ和(チェザロ平均の収束先)は 00 ですが,ana_n は収束しません(振動します)。

東大2006年理系第5問

本当は(3)までありますが,ここでは(2)までのみ扱います。

問題

a1=12a_1=\dfrac{1}{2} とし,数列 ana_n を漸化式 an+1=an(1+an)2(n=1,2,3,)a_{n+1}=\dfrac{a_n}{(1+a_n)^2}\:(n=1,2,3,\cdots) によって定める。

(1)bn=1anb_n=\dfrac{1}{a_n} とおく。 n>1n > 1 のとき bn>2nb_n> 2n を示せ。

(2)limna1++ann\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{a_1+\cdots +a_n}{n} を求めよ。

解答

(1)まず,帰納的に an>0a_n > 0 であることが分かる。よって,

bn+1=1an+1=(1+an)2an>1an+2=bn+2\begin{aligned} b_{n+1} &= \dfrac{1}{a_{n+1}}\\ &=\dfrac{(1+a_n)^2}{a_n}\\ &>\dfrac{1}{a_n}+2\\ &=b_n+2 \end{aligned}

これと b1=2b_1=2 であることから(帰納的に)bn>2nb_n > 2n が分かる。

(2)0an12n0\leq a_n \leq \dfrac{1}{2n} なのではさみうちの原理から,limnan=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=0

よって,冒頭の定理より limna1++ann=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{a_1+\cdots +a_n}{n}=0

なお,(2)は冒頭の定理を使わなくても 1+12++1n<1+logn1+\dfrac{1}{2}+\cdots +\dfrac{1}{n} < 1+\log n であることを使えば解けます。

ちなみに,2014年理系第2問(3)も冒頭の定理を知っていればすぐに答えが出せます。

定理の証明

それでは,冒頭の定理:

limnan=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha なら limna1+a2++ann=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}=\alpha

を証明します。

証明

limnan=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha なので,任意の ε>0\varepsilon > 0 に対してある NN が存在して,n>Nn > N なら anα<ε|a_n-\alpha| < \varepsilon

よって,NN より大きい nn に対して

cnα=k=1nakαn1nk=1nakα=1nk=1Nakα+1nk=N+1nakα<1nk=1Nakα+(nN)εn<1nk=1Nakα+ε\begin{aligned} |c_n-\alpha| &=\left| \sum_{k=1}^n\dfrac{a_k-\alpha}{n} \right|\\ &\leq \dfrac{1}{n} \sum_{k=1}^n | a_k - \alpha |\\ &= \dfrac{1}{n} \sum_{k=1}^N | a_k - \alpha | + \dfrac{1}{n} \sum_{k=N+1}^n |a_k-\alpha|\\ &< \dfrac{1}{n} \sum_{k=1}^N |a_k-\alpha| + \dfrac{(n-N)\varepsilon}{n}\\ &< \dfrac{1}{n} \sum_{k=1}^N | a_k - \alpha | + \varepsilon \end{aligned}

よって, 1n0k=1Nakαε \dfrac{1}{n_0} \sum_{k=1}^N |a_k-\alpha|\leq \varepsilon

となるくらい大きい整数 n0n_0 を持ってくれば,n>n0n> n_0 なら cnα<2ε|c_n-\alpha| < 2\varepsilon

が成立する。つまり,limncn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=\alpha

「チェ」とスムーズに入力するの,意外と難しいです。

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