2015/12/02

ビネ・コーシーの定理とその証明

分野: 線形代数  レベル: 大学数学

ビネ・コーシーの定理:
$A$ を $m\times n$ 行列,$B$ を $n\times m$ 行列とする。
$m\leq n$ なら, $\det AB=\displaystyle\sum_{S}\det A[S]\det B[S]$

$A$,$B$ は正方行列とは限りませんが,$AB$ は $m\times m$ の正方行列なので行列式が定義できます。行列積 $AB$ の行列式を $A$ の(部分行列の)行列式と $B$ の(部分行列の)行列式で表す美しい公式です。

ビネ・コーシーの公式,コーシー・ビネの公式などとも呼ばれます。

主張の補足と具体例

$\Sigma$ の部分について,$S$ は $\{1,\cdots, n\}$ の部分集合で要素数が $m$ のもの全体を動きます。例えば $m=2,\:n=3$ の場合,$S$ は $\{1,2\}$,$\{1,3\}$,$\{2,3\}$ を動きます。

$A[S]$ は $A$ から $S$ に対応する列を取り出した行列です。 $B[S]$ は $B$ から $S$ に対応する行を取り出した行列です。以下の例を見れば分かりやすいでしょう。

$m=2,\:n=3$ の場合の例

$\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{33}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}b_{11}&b_{12}\\b_{21}&b_{22}\\b_{31}&b_{32}\end{pmatrix}$ の行列式は,
$\det\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}\\a_{21}&a_{22}\end{pmatrix}\det\begin{pmatrix}b_{11}&b_{12}\\b_{21}&b_{22}\end{pmatrix}$
$+\det\begin{pmatrix}a_{11}&a_{13}\\a_{21}&a_{23}\end{pmatrix}\det\begin{pmatrix}b_{11}&b_{12}\\b _{31}&b_{32}\end{pmatrix}$
$+\det\begin{pmatrix}a_{12}&a_{13}\\a_{22}&a_{23}\end{pmatrix}\det\begin{pmatrix}b_{21}&b_{22}\\b_{31}&b_{32}\end{pmatrix}$

考察

  • $m=n$ の場合, $\det AB=\det A\det B$ という重要な公式と一致します。
  • $m > n$ の場合,$AB$ のランクは $m$ 未満なので行列式は $0$ です。
  • $m=2$ の場合からコーシー・シュワルツの不等式を証明することができます。
    実際,$A=\begin{pmatrix}a_{1}&a_{2}&a_{3}\\b_{1}&b_{2}&b_{3}\end{pmatrix}$,$B=\begin{pmatrix}a_{1}&b_{1}\\a_{2}&b_{2}\\a_{3}&b_{3}\end{pmatrix}$ とおくと定理の左辺は
    $(a_1^2+a_2^2+a_3^2)(b_1^2+b_2^2+b_3^2)-(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3)^2$
    となり,定理の右辺は
    $(a_1b_2-a_2b_1)^2+(a_1b_3-a_3b_1)^2+(a_2b_3-a_3b_2)^2\geq 0$
    となります。ラグランジュの恒等式とその仲間もどうぞ。

定理の証明

ブロック行列の行列式の公式を用いて証明します。けっこう難しいです。

証明

$T=\begin{pmatrix}I&B\\A&0\end{pmatrix}$ という行列を考える。ブロック行列の行列式の公式より
$\det T=\det I\det (-AB)=(-1)^m\det AB$

一方,$\det T=\displaystyle\sum_{\sigma}\prod_{i=1}^{m+n} t_{i\sigma(i)}$ という式から考えてみる。

ビネコーシーの定理の証明

($0$ を選ばないために)$A$ から $m$ 個,$I$ の対角成分から $n-m$ 個,$B$ から $m$ 個選んだ項のみが残る。そのような項は「 $A$ と $B$ の $m\times m$ の部分行列(ただし $A$ の列のインデックスと $B$ の行のインデックスは一致するようなもの)の行列式の展開項の組」と1対1に対応する。

ただし,符号については$(-1)^m$ 倍ずれる(→補足)。よって,
$\det T=(-1)^m\displaystyle\sum_{S}\det A[S]\det B[S]$
となる。以上2式より定理は証明された。

補足

ビネコーシーの定理の証明2

$\sigma$ を整える(互換を繰り返して恒等置換にする)
= $A$ の部分を整える$+B$ の部分を整える(さきほどの図の青◯に対応する置換→この図の◯に対応する置換)
$+$($i=1,\cdots,m$ に対して)$n+i$ と $S$ の $i$ 番目を交換(合計 $m$ 回交換)

証明を分かりやすく伝えるのが非常に難しい定理だと感じました。
分野: 線形代数  レベル: 大学数学