Arctanのマクローリン展開の3通りの方法

Arctan のマクローリン展開

x1|x|\leq 1 なる実数 xx について,

Arctanx=xx33+x55x77+\mathrm{Arctan}\:x=x-\dfrac{x^3}{3}+\dfrac{x^5}{5}-\dfrac{x^7}{7}+\cdots

上記の級数の意味を説明したあと,3通りの方法で導出します。

級数の意味

  • 冒頭の公式をシグマを使って書くと,Arctanx=n=1(1)n12n1x2n1=xx33+x55x77+\mathrm{Arctan}\:x=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}x^{2n-1}=x-\dfrac{x^3}{3}+\dfrac{x^5}{5}-\dfrac{x^7}{7}+\cdots となります。

  • y=tanxy=\tan x の逆関数を y=Arctanxy=\mathrm{Arctan}\:x と書いています。→逆三角関数(Arcsin,Arccos,Arctan)の意味と性質

  • y=Arctanxy=\mathrm{Arctan}\:x のマクローリン展開(x=0x=0 でのテイラー展開)です。→マクローリン展開

  • x=±1x=\pm 1 の場合は,π4=113+1517+\dfrac{\pi}{4}=1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\dfrac{1}{7}+\cdots となります。特に有名な級数です。→グレゴリー・ライプニッツ級数の2通りの証明

  • 以下では,x<1|x|<1 の場合について上記級数を3通りの方法で導出します。

等比級数の公式を用いる方法

導出1

無限等比級数の公式より,x<1|x| <1 の範囲では

11+x2=1x2+x4x6+\dfrac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-x^6+\cdots

である。この両辺を 00 から xx まで積分(注)すると,

Arctanx=xx33+x55x77+\mathrm{Arctan}\:x =x-\dfrac{x^3}{3}+\dfrac{x^5}{5}-\dfrac{x^7}{7}+\cdots

となり目標の公式を得る。

注:厳密には極限と積分の交換操作(項別積分)をしても問題ないことを言わないといけません。→項別微分・項別積分

ライプニッツの公式を用いる方法

方針

f(x)=Arctanxf(x)=\mathrm{Arctan}\:xnn 階微分の x=0x=0 の値を求めればマクローリン展開できます:
f(x)=k=0f(k)(0)xkk!=f(0)+f(0)x+f(0)2!x2+f(x)={\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}}f^{(k)}(0)\dfrac{x^k}{k!}=f(0)+f'(0)x+\dfrac{f''(0)}{2!}x^2+\cdots

そのために,積の微分公式 {f(x)g(x)}=f(x)g(x)+f(x)g(x)\{f(x)g(x)\}'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x) の発展形(nn 階微分バージョン)であるライプニッツの公式を用います:
(fg)(n)=k=0nnCkf(k)g(nk)(fg)^{(n)}={\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(n-k)}} →ライプニッツの公式の証明と二項定理

導出2

f(x)=11+x2f'(x)=\dfrac{1}{1+x^2} なので f(x)(1+x2)=1f'(x)(1+x^2)=1 である。

この両辺を n(2)n(\:\geq 2) 回微分する。右辺は 00 になり,左辺はライプニッツの公式より,

(1+x2)f(n+1)(x)+nC12xf(n)(x)+nC22f(n1)(x)(1+x^2)f^{(n+1)}(x)+{}_n\mathrm{C}_12xf^{(n)}(x)+{}_{n}\mathrm{C}_22f^{(n-1)}(x)

よって,

(1+x2)f(n+1)(x)+2nxf(n)(x)+n(n1)f(n1)(x)=0(1+x^2)f^{(n+1)}(x)+2nxf^{(n)}(x)+n(n-1)f^{(n-1)}(x)=0

(ここで,1+x21+x^2 を三回以上微分すると 00 になるので先頭の3つの項しか残らないことに注意。)

両辺に x=0x=0 を代入すると,f(n+1)(0)+n(n1)f(n1)(0)=0f^{(n+1)}(0)+n(n-1)f^{(n-1)}(0)=0

この漸化式と初期条件 f(0)=1,f(0)=0f'(0)=1,\:f''(0)=0 (注)を使うことで f(n)(0)f^{(n)}(0) が以下のように求まる!

  • f(2n)(0)=0f^{(2n)}(0)=0
  • f(2n1)(0)=(2n2)(2n3)f(2n3)(0)==(1)n1(2n2)!f(1)(0)=(1)n1(2n2)!f^{(2n-1)}(0)=-(2n-2)(2n-3)f^{(2n-3)}(0)\\=\cdots=(-1)^{n-1}(2n-2)!f^{(1)}(0)=(-1)^{n-1}(2n-2)!

よって,マクローリン展開の式に f(n)(0)f^{(n)}(0) の値を代入することにより,

f(x)=k=0f(k)(0)xkk!=n=1(1)n1(2n2)!x2n1(2n1)!=n=1(1)n12n1x2n1f(x)={\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}}f^{(k)}(0)\dfrac{x^k}{k!}\\=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}(2n-2)!\dfrac{x^{2n-1}}{(2n-1)!}\\ =\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{n-1}}{2n-1}x^{2n-1}

となり目標の式を得る。

注: f(x)=2x(1+x2)2f''(x)=\dfrac{-2x}{(1+x^2)^2} です。

※マクローリン展開における剰余項の評価をしていないので,厳密な証明としては不十分です。剰余項については →テイラーの定理の例と証明

n次導関数を求める方法

当サイトでは複素関数の微分をきちんと扱っていないので厳密な証明ではないですが,なんとなく納得していただけるでしょう。

方針

部分分数分解を用いて f(x)f(x)nn 次導関数を直接求めます。

導出3

f(x)=11+x2=12i(1xi1x+i)f'(x)=\dfrac{1}{1+x^2}=\dfrac{1}{2i}\left(\dfrac{1}{x-i}-\dfrac{1}{x+i}\right)

ここで,分数関数 1x\dfrac{1}{x}n1n-1 次導関数は (1)n1(n1)!xn(-1)^{n-1}(n-1)!x^{-n} であることが帰納法で簡単に証明できるので,

f(n)(x)=(1)n1(n1)!2i{(xi)n(x+i)n}f^{(n)}(x)=\dfrac{(-1)^{n-1}(n-1)!}{2i}\{(x-i)^{-n}-(x+i)^{-n}\}

nn 次導関数が求まったのであとは x=0x=0 を代入して計算していけば f(n)(x)f^{(n)}(x) が求まり Arctanx\mathrm{Arctan}\:x の級数展開を得る(詳細は省略)。

けっこう大学内容ですが高校生にも読んで欲しいので緑記事にしました。

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