アーベルの総和公式とその意味

アーベルの総和公式

k=1nakbk=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k=A_nb_n-\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_{k+1}-b_k)

ただし,Ak=i=1kaiA_k=\displaystyle\sum_{i=1}^ka_i

アーベルの変形公式,アーベルの変形法,Abel transformationなどとも呼ばれます。

アーベルの総和公式の具体例

アーベルの総和公式 k=1nakbk=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k=A_nb_n-\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_{k+1}-b_k) はパッと見ただけではイメージがつかみにくいです。そこで,まずは nn が小さい場合を具体的に書き下してみます。

n=1 の場合
  • 左辺は a1b1a_1b_1
  • 右辺は a1b1a_1b_1
n=2 の場合
  • 左辺は a1b1+a2b2a_1b_1+a_2b_2
  • 右辺は (a1+a2)b2a1(b2b1)(a_1+a_2)b_2-a_1(b_2-b_1)
n=3 の場合
  • 左辺は a1b1+a2b2+a3b3a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3
  • 右辺は (a1+a2+a3)b3a1(b2b1)(a1+a2)(b3b2)(a_1+a_2+a_3)b_3-a_1(b_2-b_1)-(a_1+a_2)(b_3-b_2)

右辺の項同士がうまく打ち消し合って確かに恒等式となっていることが分かります。

2通りの証明

具体例が確認できたところで,次はアーベルの総和公式の証明です。2通り紹介します。

計算による証明

ak=AkAk1a_k=A_{k}-A_{k-1} に注意すると,アーベルの総和公式の左辺は,

k=1nakbk=A1b1+(A2A1)b2++(AnAn1)bn=A1(b1b2)+A2(b2b3)++An1(bn1bn)+Anbn=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k\\ =A_1b_1+(A_2-A_1)b_2+\dots +(A_n-A_{n-1})b_n\\ =A_1(b_1-b_2)+A_2(b_2-b_3)+\dots +A_{n-1}(b_{n-1}-b_{n})+A_nb_n\\ =A_nb_n-\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_{k+1}-b_k)

図形による説明

※この方法は数列 ak,bka_k,b_k の各項が正の場合にのみ通用します。

簡単のため n=4n=4 の場合について説明します。一般の場合も同様です。

アーベルの総和公式

図において,aia_i は小さい長方形の横幅を,bib_i は下から ii 個分の長方形の縦幅の和を表しています。

アーベルの総和公式
k=1nakbk=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k=A_nb_n-\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_{k+1}-b_k)

において,

  • 左辺は水色の部分の面積
  • 右辺第一項は大きい長方形全体の面積
  • 右辺第二項は黄色の面積

を表すので確かに成立しています。

部分積分との関係

実は,アーベルの総和公式は「部分積分を離散化したもの」とみなせます。

以下は大雑把な議論で数学的に厳密ではありませんが,部分積分との対応を考えるとアーベルの総和公式をイメージしやすいです。

部分積分を離散化する

部分積分の公式: 0nfgdx=[Fg]0n0nFgdx\displaystyle\int_0^n fgdx=[Fg]_0^n-\int_0^nFg'dx

(ただし,ffFF の微分)

に対して「離散化」する。すなわち,積分はシグマに,微分は差分にする:

k=1nf(k)g(k)=F(n)g(n)k=1n1F(k)(g(k+1)g(k))\displaystyle\sum_{k=1}^nf(k)g(k)\\ =\displaystyle F(n)g(n)-\sum_{k=1}^{n-1}F(k)(g(k+1)-g(k))

(離散化するときの積分区間が少し不自然だが)これはアーベルの総和公式になっている:

k=1nakbk=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k=A_nb_n-\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_{k+1}-b_k)

部分積分は,fgfg が積分しにくいときに FgFg' の積分に帰着させる公式でした。

同様に,アーベルの総和公式は 数列の積 abab の和が計算しにくいときに aa の和と bb の差分で評価する式とみなせます。

アーベルの不等式

アーベルの総和公式には多数の応用があります。例えば,n変数の不等式証明のテクニック や,karamataの不等式 の証明などがあります。以下では応用例の1つとしてアーベルの不等式を紹介します。

アーベルの不等式(数列の積の和を評価)

b1b2bn>0b_1\geq b_2\geq\cdots\geq b_n>0

および k=1,2,,nk=1,2,\cdots,n に対して mAkMm\leq A_k\leq M

が成立するとき,

b1mk=1nakbkb1Mb_1m\leq \displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k\leq b_1M

証明

アーベルの総和公式

k=1nakbk=Anbn+k=1n1Ak(bkbk+1)\displaystyle\sum_{k=1}^na_kb_k=A_nb_n+\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_k-b_{k+1})

において,AkA_km,Mm,M に置き換えたものがアーベルの不等式の最左辺,最右辺になっている。

最初見た時はひるむような式ですが,イメージが分かればたいしたことありません。